第9話 聖騎士団

「ぜぇ、ぜぇ……」


 あー、死ぬぅ〜。疲れた!まだ終わらないの!?

 かなりの時間を走り続けたのだが団長からの終わりの合図はない。

 自分のペースでゆっくりと走って良いとは言われたけれどそれでも走っている事に変わりはなく、永遠には体力が続かない。

 他の兵士の様子はまだまだ余裕な人と私みたいに死にそうな人とで既に体力の差が出ていた。


「歩くなよ?歩いたらペナルティだ」


 団長からの声で歩こうとしている人もなんとか走っている。

 よし、こうなったらあれ使っちゃお。昨日は成功出来たんだし今の私なら出来るはずだ。

 魔力を身体を覆うように薄ーく、前よりも薄く、そして丁寧に纏っていく。


「ふふ、出来た」


 使ったのは《身体強化》、これで身体がもっと上手く動かせる。魔力もゴリゴリ減っていくが疲れが減るなら問題ない。

 それにしても私も魔力操作少しは上手くなったんじゃない?今までお兄ちゃんの真似で試した時は出来なかったのにまた成功しちゃった。

相変わらず発動までが遅いけど。


「はぁ、はぁ……だいぶ楽になった」


 魔法を使ってはいけないというルールは無かったはず。要は走っていればペナルティにはならない。

 魔力が無くなるのが先か、体力が無くなるのが先か。

 ……よく考えてみたら私、魔力が切れたことがない。今まで簡単な魔法しか使ってこなかったしどれくらい使っていたら無くなるのだろうか。


「そこまで」


 団長が終わりの合図をした。

 周りの人達はほとんどが疲れ果てて倒れている。もちろん私もぐったりだ。


「しばらく休憩だ。息を整えておけ」


 その後、別の訓練をすると思っていたのだがまた走らされて結局午前中はずっと走っていた。


「うぅ……」


 疲れ果てた私は訓練場に倒れこんで動けずにいた。食欲はあるけれど食べ物が喉を通る気がしない。


「随分とセシリアにしごかれたようだね」

「師匠、笑ってないで暇なら食堂まで連れて行ってください」

「別にいいけど兵士としてプライドとかないの?」

「ご飯食べたいので」

「あ、そう」


 いつの間にか居た師匠に食堂まで背負ってもらう。

 兵士としては駄目な気がするが誰もこちらを見ているだけで文句を言ってこないのでいいでしょう。


「ところで午後は前衛職と後衛職で分かれるらしいけどマヤはどっちにするの?」

「本音を言うなら後衛職の方に行きたいですけれど魔法は師匠が教えてくれるので前衛職の方に行きます」


 疲れ果てて剣を振るうことすらやりたくないんだけどね。駄目だと思ったら《身体強化》で誤魔化そう。


「ほら、ご飯持ってくるからここで座って待ってて」

「ありがとうございます」


 ちょこんと椅子に座って待っているとすぐに師匠は美味しそうなご飯を持ってきてくれた。


「どうぞ、お食べ」

「いただきます」


 まずはパンをぱくりと頬張る。柔らかい、美味しい。でも……。


「師師……」

「どうかした?嫌いなものでもあった?」

「ご飯はとても美味しいんですけれど、身体が受け付けませ、うぷっ……」

「ああ、もう勢いよく食べるから!」


 気持ちが悪くなって口を押える。

 

「もうダメ?出そう?」

「いや、耐えました」


 食べ物を粗末には出来ない。私は気合で吐き気を抑えた。


「マヤ、医務室……行こっか」

「え、でもご飯……」

「吐きそうな目にあってすぐに食べさせられないから」

「ご飯……」


 美味しそうなご飯は取り上げられて私は医務室に連れていかれた。


「師匠、あまり揺らさないで、うっ」

「ちょっ!僕の背中に吐くのだけはやめて!」


 背負われて医務室に向かっている最中、揺れにより吐き気が襲ってきたのを耐えるのがきつかった。


「大神官様!?どうされたのですか?」

「この子が訓練で無茶をしてね。吐き気は僕の回復魔法じゃ治せないから医務室で寝かせてあげて」

「あー、確か今日は兵士の訓練初日……分かりました、寝かせておきます!」


 師匠からベッドに降ろされた私は力なく寝転がる。

 なんとか師匠の背中を汚さずに済んだ。


「僕は仕事に戻るよ。マヤの事はセシリアに言っておくから安心して休んでね」

「ありがとうございます」


 午前中走っただけでダウンするなんて本当に情けない。団長は途中途中で休憩をはさんでくれていたし走るペースも自分のペースで良いと言っていた。

 それなのに力尽きるなんてやっぱり私は体力がない。もっと体力をつけないと――











「あれ?」


 気づいたら眠っていたらしい。

 体調は……大丈夫、もう気持ち悪さはない。疲労感はあるが問題なく身体を動かせそうだ。


「起きた?」

「師匠、仕事は?」


 私の横には師匠が果物を綺麗に切っていた。美味しそう。


「仕事よりも弟子の看病が優先でしょ」

「本音は?」

「サボる理由が出来てラッキーだね」


 だろうと思った。

 まだ師匠と出会って二日目だけどこの人はいつも仕事をサボっていた。大神官というクラスでの仕事なんてこの人しかできないだろうに………………もしかして一般人が転職出来ないの仕事をサボりすぎて溜まりまくっているせいなんじゃ――


「師匠、仕事してください」

「いきなりだね!一応、マヤの心配しているんだよ?ほら、果物」

「あ、頂きます。美味しい……じゃなくてですね!師匠が仕事を終わらせないと私が訓練受けられなくなるかもしれないじゃないですか」


 危ない、危ない。果物に釣られてしまうところだった。


「ええ、う~ん。でも……」

「ほら、私は元気です。これ食べたら私も団長さんの所に行くので」

 

 貰った果物をパクリと頬張り、立ち上がり訓練場に戻ろうとした。


「それなら勇者と交流のあった僕の騎士団に会うのはどうだい?」


 勇者という言葉に私は立ち止まり、振り返る。


「お兄ちゃんと交流があった人たち……お兄ちゃんが所属していた騎士団?」

「聖騎士のみなれる特別な騎士団だよ。こんな貴重な体験、僕が仕事していたら出来ないね」


 そこまでして師匠は仕事をしたくないのか。

 でもお兄ちゃんが所属していた騎士団なら魔界についても詳しいかもしれない。


「仕事はサボっていいので案内してください」

「任せてよ!」


 笑顔な師匠に連れられて別の訓練場に案内される。

 私が訓練した場所よりも大きく、立派だ。


「ニコラ様!またお仕事をサボって遊びに来たんですか?」

「あー、ニコラ様だ!やっほ~」

「隣にいる子供はニコラ様の子か?」

「そんな……ニコラ様に子供がいたなんて」


 騎士が師匠の元に集まってくる。凄い人気だ。

 隣にいた私もジロジロと見られる。この人達がお兄ちゃんが所属していた騎士団の人達……良い人そうだ。


「僕の自慢の弟子」

「「「「「「弟子!?」」」」」」


 弟子という言葉でより一層、私の元に集まってきた。なんか圧が凄い。


「ついでに言うと勇者の妹」

「「「「「「勇者の妹!?」」」」」」


 訓練どころではない騒ぎなのは私のせいではない……はず。

 

「と言うことで僕の弟子であり勇者の妹であるマヤが勇者の話を聞きたいらしいよ。訓練は程々に話してあげて」

「「「「「「はい!」」」」」」


 それからは凄かった。次から次へと私の知らないお兄ちゃんを話してくれて、魔界についても詳しく教えてくれた。


「これは俺ら聖騎士団か王族しか知らない国家機密の話なんだけどな……魔界はこことは時間の流れが違うらしい」


 国家機密なんて私に話して良いんだろうか……?まあ、聞くけど。


「時間の流れ?」

「ああ、魔界へのゲートは一方通行。帰って来れる事は殆ど無いが稀に魔界側でもこっちへのゲートが現れるらしい。運良く帰って来れた奴は数ヶ月魔界で過ごしたのにこっちへ帰った際には数年経っていたと聞いた。」

「ならお兄ちゃんが居なくなって3年でも魔界では……」

「この話が本当なら数ヶ月程度だろうな」


 この話を聞いて私は涙を流してしまった。

 お兄ちゃんなら生きてるって信じてる。でもやっぱり心のどこかには不安があった。

 まだ数ヶ月なら絶対に生きている!


「このままだとウィルが弟になるな!」

「確かにその通りだ」

「ふふ、それもそれで面白そうじゃ無い?」

「ウィルの驚く顔が想像出来るわ」


 確かにお兄ちゃんなのに私より年下になっちゃうね!そうならない為に早くお兄ちゃんを見つけなきゃ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る