第8話 弟子になった
「……という経緯でマヤは僕の弟子になったから入団試験は落としといて。僕が鍛える」
「マヤです。大神官の弟子になりました。よろしくお願いします。」
入団試験が終わり、各自解散となったので私も帰ろうと思ったら師匠に連れられて団長に挨拶することになった。
「ニコラ、お前ってやつは……」
呆れた顔で頭に手を当てて団長は師匠の事を見ている。師匠のとんでもない行動は今に始まった話ではなさそうだ。
「マヤは私が鍛える予定だったのだが」
「え、団長さんが!?」
私はてっきり入団試験に落ちているのもだと思っていた。
騎士との戦いで全く攻撃できず、最後には体力が無くなり立つことも出来なかった。ダンジョンなら完全に他の人たちにとって足手まといだろう。
「ああ、素晴らしい逸材だ。しかし二コラは何を教えるんだ?マヤは剣士のはず……二コラが《転職》させたのか?」
「いやいや、いくら適当な僕でも勝手に《転職》はしないよ。効率のいい魔力操作の訓練法とか教えようと思って」
「魔力操作……マヤは魔法を使えるにもかかわらず試験で使わなかった、と」
「使わなかったではなく使う余裕がなかった、ですね」
団長が少し睨んできて怖かったのですぐに訂正する。魔力操作の問題で使えなかったことなど色々と話した。
「事情は分かった。ただ魔力操作が苦手なのはクラスが剣士だからじゃないか?」
「あー……うん、たぶんね」
「クラスが関係しているんですか?」
師匠は納得した顔をしている。
私が疑問に思っていたら師匠が説明してくれた。
「魔力持ちで剣士は今までもいた。その1人は《転職》で魔導士になったんだけど魔導士になってから剣の扱い方が下手になったんだよ」
「クラスによって与えられるスキルが違う。その関係だろう」
なるほど、確かに剣士の私は《剣術》というスキルを持っている。
剣の扱いが上手になるというシンプルなスキルだがこれがあるかないかで全然剣の扱いが違う。
「マヤなら別のクラスだってなれるはずだ。ニコラ、《転職》を使ってやれ」
「あー……」
師匠は困った顔で私のことを見てくる。
そんな簡単に《転職》なんてやってはダメなのだろう。
「どうした?いつもなら独断で気に入った奴に使うではないか。私が許可する、使ってもいいぞ?」
「いや、使うのを躊躇っているわけじゃなくて…………マヤに使っても無駄なんだ」
「何!?という事はマヤは剣士以外なれないのか!」
師匠が私に《転職》を使っても何もなれないと言ってきた。私には剣士以外の才能が無い。
まあ、今までと変わらず頑張ろう。
「ごめん、何度試してもダメだった」
「別に《転職》しなくても魔法使えますし魔力操作が下手なら特訓すればいいのでいつもと変わらないですよ。なんなら剣の扱いが下手になる方が嫌です」
剣の扱いだって最初はとんでもなく下手だった自覚はあるし、魔法も使えるようになるまでずっと失敗していた。あの頃となんら変わりはない。
「というわけで僕は魔法、セシリアは剣を教えるのはどうだい?」
「私は構わないが兵士の訓練に混ざってもらう形になるぞ。それでもいいか?」
「僕はいいよ。マヤもいいよね?」
「はい」
こうして今後の予定が決まった。一週間に三日間は魔法、三日間は剣を習い、一日休みだ。
師匠の弟子という身分を貰い、給金も師匠が自腹で払ってくれるらしい。
「弟子に給金は基本ないのだが……」
「まあまあ、僕がどうしてもってお願いした側だから。とりあえず毎週金貨1枚でいい?」
「はい……っえ?」
今、金貨って言った?銀貨じゃなくて?
「バカ、多すぎだ。銀貨10枚くらいにしておけ」
「いやいや、少ないでしょ。マヤが可哀想だって」
銀貨10枚も十分な大金だよ?二人とも金銭感覚おかしくない?
「今回の短期兵士が一か月で銀貨10枚だ。少なくない」
「そうかなぁ」
二人の話し合いの結果、銀貨15枚になった。増えたんだけど……。
こんなに貰っても使う機会が無いしお父さんお母さんに仕送りとして送っておこう。冒険者ギルドなら配達で送ってくれるはず。
「明日から早速訓練だ。今日はゆっくり休んでおけ」
「はい、色々とありがとうございます」
師匠は私を弟子にするという事の申請みたいなのをやると言って何処かへ行ってしまった。
私も特に予定はなかったので団長と話していたのだが団長もこの後、兵士の選定があるとの事で別れた。
「大神官の弟子……か」
宿屋に戻った私はベッドに寝転んで今日の出来事を振り返る。
これでお兄ちゃんに一歩近づけたかな?少しでも強くなって早くお兄ちゃんに会いたい。
グー……
「お腹空いた」
お腹のなる音で自分が空腹な事に気づく。やっぱり疲れているのかもしれない。
かなり濃い一日だったけれどまだお昼過ぎだ。ご飯を食べた後に衣服などの日用品を買いに行こう。
「剣の手入れもしないとね!」
私はベッドから降りて部屋から出ていった。
そして次の日――
「あの、入っても良いですか?」
訓練を受ける為、城の門にいる騎士に話しかける。
「ん?入団試験に合格した者か。名前は?」
「マヤです」
入団試験には落ちた事になっているらしいけれど入れるだろうか。
「マヤ……ちょっと待て、その名は大神官様のお弟子さんでは?」
「はい、一応弟子です」
「しょ、少々お待ちください」
少し待っていると騎士と共に団長もやってきた。
「おはよう、今日からよろしく頼む」
「おはようございます。よろしくお願いします!」
私は団長と一緒に訓練場へと行く。既に数人の合格者がいるようだった。
「ああそうだ、言い忘れるところだった。大神官の弟子というのは騎士団の一部や関係者しか伝えてない、今のところは内密にしてくれ」
「分かりました」
そういえば師匠はいないのだろうか。
辺りを見渡すが師匠は見当たらない。
「ニコラか?あいつは昨日サボった仕事の処理が大変らしいぞ」
「あー……」
そうだよね。大神官だもんね。普通、入団試験みたいなところに来ないよね。
「まあ、そのうち顔を見せにくるだろう。では訓練開始まで少し待て」
訓練……どんな事をするんだろう。
ここに集まる人達とダンジョン攻略するんだし今いる人にでも話しかけて仲良くなった方が良いかな?
……あれ?よく考えたら私は兵士じゃないからダンジョン攻略には参加しない?あとで団長に聞いてみよう。
「さて、剣の手入れでもしてよっと」
昨日戦っただけで少し刃こぼれが出来てしまっている。私の扱い方が下手なせいだ。
丁寧に磨いて少しでも長持ちするように綺麗にしていく。
「ごめんね。新しい剣が出来るまでの短い時間だけどもっと上手くなるから」
元々持っていた長剣は安いボロ剣だったけれど大事に使っていた。粉々になった原因が魔力を纏わせたことであっても私が魔力操作をもっと上手くできれば壊れなかったかもしれない。
しばらく磨いているとついに訓練の時間になった。
「皆、合格おめでとう。これから一か月、短期ではあるがこの国の兵士、くれぐれも問題を起こさないように!さて、早速だが訓練を開始する。午後からは前衛職と後衛職、分かれてもらうが午前は全員同じだ」
私はクラス的に前衛職だがどっちに行くべきだろうか。
「午前は体力の向上、この訓練場を私がやめと言うまでひたすら走ってもらう。ゆっくりでもいい、歩くな」
いきなりハードそうな訓練だ。
周りにいた他の兵士はとても不満そうな顔をしているが団長に逆らう者はいない。
「では始め」
団長の合図と共に全員が走り出した。
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