第7話 二次試験
「では二次試験を始める!」
しばらく待っていると二次試験が始まった。
さっきの大神官はなんだったのか気になったけれど団長に連れて行かれてから見当たらない。
気にしても仕方がないので試験に集中する事にした。
「二次試験では騎士と戦って実力を見させてもらう。先程配られた番号札に書かれた番号を順番に呼ぶ。各自、準備して待て」
なるほど、だからこの番号札が配られたのか。
私の番号は100、これが前の方なのか後ろの方なのか分からないが準備して待っていよう。
「1〜10番、前に出ろ」
呼び出された番号の人たちが前に出る。
「準備はいいか?では……試験開始!」
一斉に戦いが始まった。
「うわぁ、凄い」
とても俊敏な動きで騎士を撹乱している人、強固な鎧と盾で防御を固めつつ戦う人、魔法で近づけさせないように戦っている人。各々が色んな戦い方で騎士と渡り合っていた。
魔法を片手で使いつつ剣でも攻撃する人もいる。あんな器用な事、私には出来る気がしない。
「これを見ているだけで勉強になる」
剣の扱い方、魔法の扱い方、体の身のこなし、全てをこの目で見て覚える。
「そこまで!1~10番は後ろに戻れ。次に――」
最初の戦いが終わり、次が始まる……。
すぐに終わったり、長い間戦っていたり、試験時間はバラバラだった。10人全員の戦い方を見るまで終わらないのだろう。
「91~100番、前に出ろ」
ついに私の番が来てしまった。みんながみんな凄い戦いをしていて、私なんかがこんな所に立っていいのだろうかと自信を無くしつつある。
ううん、弱気じゃダメだ。ここで兵士になって活躍してお兄ちゃんの事を聞くんだ!
「では……開始!」
開始とともに剣を抜き、騎士に突撃する。待っている間、ずっと見てきた。私が相手にしているこの騎士の動きもしっかりと覚えている。
突撃した勢いのまま身体の重みを加えた攻撃を叩き込む。当然、私の攻撃なんて受け止められ私の剣ごと振り上げられる。
「そうくると思った」
振り上げられることが分かっていた私はその勢いを利用して身体を一回転、うまく体制を整える。
騎士は私の対応に驚きつつも剣は既に私の横腹へ向かっている。
「それも見たことある」
騎士の攻撃をスレスレのところで跳んで避ける。
てっきり寸止めで止めてくると思ったのに本気で剣を振っていた。私が避けなかったら身体が真っ二つになっていただろう。容赦がない。
「当たらん……凄いな」
「騎士様に褒められて光栄です」
カキンッ……カキンッ……
元々容赦のなかった攻撃がさらに激しくなる。受け止めたり避けるのに精一杯で私が攻撃する余裕がない。
「はぁ……次は」
相手の動きを予測、次は恐らく下からくる。これを避けたら攻撃のチャンスだ。
「あ、れ……?」
相手の剣が下から来た。これは予想通り。しかし何故か身体の動き出しが遅い……これでは避けきれない。
頭ではわかっているのに身体がついてこなかった。
「やばっ、これ当た――」
「っ!」
騎士も私が避けきれないことに気づき、攻撃の手を止めようとするが間に合いそうにない。
「すまない、あまりに素晴らしい戦いで止めるのを躊躇った」
なんと、団長が間に入って騎士の攻撃を防いでくれたのだ。
た、助かった……。このままだったら私の左腕が無くなるところだった。
「そこまで、両者よく頑張った」
「ありがとうございます」
「あり、がとう……ます。はぁ、はぁ……ごほっ」
戦いが終わると身体が悲鳴を上げるかのように疲労が込み上げてきて座り込んだ。息も切れ切れで上手く話せない。
それに比べて騎士の方は息切れもせず、何事もない平気な顔で立っている。実力差が凄かった。
「立てるか?」
「は、い」
団長に立てるかを聞かれて答える。試験は終わったのだからここから動かないと。
しかし立ち上がろうとするが身体が動かない。
「立てないか。スマン、持ち上げるぞ」
「え……」
団長が私を持ち上げて邪魔にならない安全な所まで運んでくれた。めっちゃ恥ずかしかったけれど私が立ち上がれないのが悪い。
「では、再開するぞ。次は……」
私を運んですぐに試験を再開した。
「いやー惜しかったね」
「惜しくも何ともないですよ……って大神官!?」
「うん、大神官だよ。二コラって呼んでね」
団長に怒られていたであろう大神官がいつの間にか私の横にいた。全く気付かなかった。
大神官と分かった後でも全然偉そうに見えない。
「団長さんに怒られたんじゃないんですか?」
「怒られた怒られた。でも弟子の戦いは見たいし」
「弟子になった覚えはありませんが」
いつの間にか弟子にされていたので否定するがこの大神官は全く私の話を聞かない。
「魔法を使っていたらもっと上手く戦えていたんじゃない?」
「私、魔法を使うのに魔力を込めてからじゃないと使えないのであんな戦いの最中に使う余裕はないです」
他の人みたいに器用に魔法を使ってみたいんだけど私の魔法はお兄ちゃんが見せてくれたものを見よう見まねで使ってみた独学。
使おうとしてから集中して魔力を操作しなければ発動しない。なんなら一番使い慣れた《ライト》ですらたまに失敗する。
そのことを大神官に伝える。
「なるほど、魔力操作は人それぞれだからある程度まで行くとその後は慣れなんだよね」
「ある程度まで教えてくれたり……」
「君はある程度までは到達してるよ」
「なら練習あるのみですね」
独学でもある程度までの魔力操作は出来るようになっていたらしい。
大神官ほどの有名な人が言うのだから嘘という事はないだろう。
「それにしても君のお兄さんも魔力持ちなんてどんなクラスなんだい?君と同じで剣士だったりする?」
「勇者ですね」
「勇者かー、それなら魔力使えても納得……勇者!?」
唐突な勇者発言に大神官が驚きで固まってしまった。
そうだ!大神官ならお兄ちゃんの事、何か知っているかもしれない。
「勇者ってウィルの事だったりする?」
「お兄ちゃんの名前ですね」
「なら君の名前は……マヤ?」
「はい、マヤです」
やはり、大神官はお兄ちゃんの事を知っている。そんな有名な人とも知り合いだなんて流石お兄ちゃんだ。
「……勇者の妹、か。うん、改めて僕の弟子にならない?」
「いや、そんな余裕は無いんですよ。私はお兄ちゃんを探さないといけないんです!」
「それがマヤの旅の目的?」
「はい、お兄ちゃんが家に帰ってこないので」
「それなら僕を存分に利用していいよ?勇者と仲が良かった人とか知ってるし」
大神官を利用……お兄ちゃんについて知ってる人と話ができる……。それなら弟子になってもいいかな?
「勇者に会いに行くなら魔界に入るよね。マヤの今の実力では正直、勇者にとって足手まといだよ」
「う、お兄ちゃんの足は引っ張りたく無い……」
「でしょ?僕の弟子になればそれも解決するかも?」
魔界は危険。こんな私では生きていけない。
「お兄ちゃん最優先で大神官の命令は聞けるか分かりませんよ?」
「うんうん、問題ないよ!と言う事は……?」
「弟子としてよろしくお願いします」
こうして私は大神官の弟子となった。
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