第4話 初めての王都
「ここが冒険者ギルド……!」
王都の街並みは本当に素晴らしくてずっと感動していた。二人に案内された冒険者ギルドも大きくて立派な建物でなんだか威圧感がある。
なんだか入るのを躊躇っているとエレノーラさんに背中を押されてそのまま中へと入ってしまった。
「あら、今日は人が多いわね。何事かしら?」
「ひとまずギルドマスターに報告だ」
どうやらいつもより人が多いらしい。何か掲示板のようなもので人だかりが出来ている。
「マヤちゃんは冒険者登録よね、あっちの窓口で登録できるわ」
「ありがとうございます」
二人は奥の部屋に行ってしまったので、私も冒険者登録が出来る窓口に向かう。
「こんにちわ!本日は冒険者登録ですか?それとも依頼で?」
「登録に来ました」
「登録ですね!まず登録料、銅貨5枚です」
「うっ……は、はい」
そうだよね、お金いるよね。
とても苦しい懐事情だが払わないわけにはいかないので渋々銅貨を5枚払う。
「では、この水晶に触れてください。名前とクラスが分かりますので」
受付の言う通りに水晶に触れる。少し光ったが特に何も起こらない。
「名前はマヤさんでクラスは剣士ですね。こちら、冒険者カードになります。紛失したら再発行に銅貨10枚かかりますのでご注意を」
「ありがとうございます」
Gランクとかかれた冒険者カードを受け取る。
水晶を触るだけで冒険者カードが出来るなんて不思議だ。絶対に紛失だけはしないように心がけよう。
「何かご質問などございますか?」
「依頼の受け方と冒険者ランクについて教えてください」
「はい、まず依頼は――」
依頼は基本的に掲示板にある依頼が書いてある紙を受付に持ってこれば受けられる。受付の人に聞いたらオススメの依頼を教えてくれる事もあるらしい。
そして冒険者ランクについては上からS、A、B、C、D、E、F、G、となっていてランクが高いほど良い依頼が受けられる。ただ、ランクが高いほど難易度があがり、危険度も増すので注意が必要。
ランクを上げるには依頼達成による冒険者ギルドへの貢献度を稼ぐこと。ただしD以上は昇格試験があるのでそれに合格しないとランクは上がらない。
「勉強になりました」
「依頼の受注や達成報告は隣の窓口でお願いしますね」
「はい、早速なにか受けようと思います」
受付の人に感謝を伝えてから依頼があるであろう掲示板に向かうが人が集まっていて見れそうになかった。
「あ、いたいた。マヤちゃん、ちょっと付いて来てくれるかしら、ギルドマスターがお呼びよ」
「ギルドマスターが?分かりました」
一体ギルドマスターなんて偉い人が私に何の用……ってレッドグリズリーの件だよね。
私はエレノーラさんにギルドマスターの部屋へと連れていかれた。
「連れてきたわよ」
「あの、初めまして、マヤと言います」
部屋に入るとガイルさんがソファに座っており、その正面にギルドマスターらしき男の人が座っていた。
「そんなにかしこまらなくていい、いつも道理で結構だ。リラックスして座ってくれ」
「そうね!わたくし達も別に敬語とかいらないわ、うん、そうしましょう」
「俺もあまり堅苦しいのは嫌いだから普段通りにしてくれ」
「そ、そう言うなら……分かりま、分かった」
エレノーラさんにそのまま連れられ、ソファにちょこんと座る。ガイルさんとエレノーラさんの間に座らされて逃げ場がない。
「さて、そこの二人から聞いたのだがレッドグリズリーを倒したのはマヤで間違いないか?」
「うん、私が倒した」
「そうか……この若さでAランク級魔物を倒せる実力者とは」
「あ、でも殆ど相打ちみたいなものでエレノーラさんの回復魔法がなかったら死んでたかも」
倒した瞬間に意識を失っていたしその後に別の魔物が現れていたら確実に死んでいた。
「それでもだ。レッドグリズリーを倒してくれて感謝する。それで素材に関してだが全て換金でいいか?何か必要な素材があれば換金せずに渡すぞ」
「特に必要なものは……」
あ、そうだ。私の長剣、粉々に壊れたんだった。レッドグリズリーの鋭い爪なら良い剣の素材になるかもしれない。ついでに衣服もボロボロだからあの硬くて丈夫な毛皮も少し貰おう。
「剣用に爪と防具用に毛皮を少し残してそれ以外は換金でお願い」
「分かった。すぐに解体をしよう。今日中には終わらせるからまた夜にでも来てくれ。他に何か聞きたいことはあるか?」
「う~ん、宿とか――」
ギルドマスターにオススメの宿を、ガイルさん行きつけの鍛冶屋を教えてもらったので夜までの間に行くことにした。
「王都は比較的に治安がいい方だけど気を付けてね。マヤちゃん可愛いし」
「マヤの実力なら問題ないとは思うがな」
「うん、またね!」
二人と別れてまずは宿屋へ向かう。王都の簡易的な地図を貰っているから迷わずに宿屋に到着した。
「月見宿にようこそ!ご宿泊ですね。お一人様ですか?期間はどれくらいにします?」
「はい、一週間でお願いします」
「一週間ですと……銀貨1枚と銅貨5枚です!」
ギルドマスターに換金の前金を貰っておいて良かった。安めの宿をオススメしてもらったけれど私の全財産である銅貨5枚では粗悪な宿しかないと言われたから貰っておいたのだ。
「こちら、お部屋の鍵です!部屋番号が書いてありますのでそちらにお泊りください」
「ありがとうございます」
私は部屋の鍵を受け取り、そのまま外に出た。次は鍛冶屋に行こう。
「さて、鍛冶屋は地図通りならここなんだけど……」
到着した場所には"ガレット鍛冶屋"と看板があるのでここに間違いはないはずなのだがかなり古臭い建物でツタなどが生え放題で建物に絡みついている。私が住んでいた田舎の村でもこんな家はなかった。
廃墟と思われてもおかしくないが何度地図を見ても目的地は目の前だ。
「よし、入ろう」
ギギギギと鈍い音を鳴らして扉を開けていく。中に入ると確かに鍛冶屋のようで様々な武器や防具が売っていた。ただ、今回は既製品を買いに来たのではなくレッドグリズリーの素材を元に剣や防具を作ってほしい為、オーダーメイドのお願いをしに来たのだ。しかし店員が見当たらない。
「……ZZZ」
「ね、寝てる!」
店員らしき女の人が机に伏せて寝ていた。ぐっすり眠っていてまるで起きそうにない。窃盗とか色々と大丈夫なのだろうか。
「あの~」
「んん~むにゃむにゃ」
肩を揺らして起こしてみるが全く起きる気配がない。もっと強めに起こしてみよう。
「あの!起きてください!」
「うわっ!なに!?」
耳元で大きな声を上げたことで驚いたのか飛び起きてきた。
「大声で起こすなんて一体誰よ」
「客ですけど」
「客?こんな薄汚れた店によく入ってきたね!」
「自分で言うんだ……」
この人は立ち上がって私の事をジロジロと見てくる。
「よく見たら貴方も薄汚れた格好だしこの店とお揃いだね!」
「この人、初対面なのに失礼すぎる!でも事実だから言い返せない!」
「あはは!まあ大方、魔物にやられた感じかな?血が乾いた痕があるし。それでお求めは防具ないし衣服でしょ」
「武器も作って欲しい。お金は多分大丈夫」
そういえばいつのまにかタメ口で話してるけど失礼な人だしいいでしょ。
「武器も?腰にかけてあるやつじゃダメなの?」
「これは見せかけてるだけで刃の部分が死んでる」
武器を持っていた方が襲われにくいとエレノーラさんに教えてもらったから刃のない剣を装備している。その剣をこの人に渡す。
「これはこれは、普通の使い方では無い壊れ方だね。どんな使い方をしたのか教えてくれる?」
「えっと、実は……」
私はことの経緯を教えた。
「あー、魔力を纏わせたのかぁ。それならこんな壊れ方してもおかしく無いね」
「壊れたのって魔力を纏わせたからなの?レッドグリズリーを切ったからじゃなくて?」
「うん。剣に限らず武器や防具もなんだけど品質によって魔力に耐えられる量には限りがあるからそれ以上の魔力を纏わせたらこうなっちゃうね」
あの時は無我夢中で全力の魔力を剣に込めたから壊れたのか。今までは何回試しても出来なかった魔力剣……また出来るだろうか。
「まあ、レッドグリズリーの素材が手に入るならどんなに魔力を纏わせても大丈夫だと思うよ!手に入ったらまた来て!それまでは寝てるから――」
「ね、寝た……!」
こんな人に頼んで大丈夫なのだろうか。大丈夫である事を祈ろう。
「あ、衣服は好きなの適当に持って行っていいよ……お代は、あと、で――」
なんて寝言みたいな事を呟いていたから適当に動きやすい服装を貰って着替えてから外に出た。夜まで暇になったから王都を観光しよう。
色々な屋台があったり、おしゃれな洋服店、賑わっている雑貨屋、はたまた人だかりにはちょっとしたマジックショーなど王都は凄いところだ。
「焼き鳥一本下さい!」
「嬢ちゃん可愛いから一本おまけしてやるよ!」
「いいんですか?ありがとうございます!」
美味しそうな焼き鳥を買ったら倍になった。ピリ辛のタレが私好みで美味しかった。
「ん……ごくっ、あの集まりはなんだろう?戦ってる音がする」
食べ歩きをしていると戦闘音が聞こえた。近寄ってみると大きめの広場で男の人二人が戦っているのが見えた。
「おら!どうしたお貴族様よぉ!俺のパワーに押されてるんじゃねえか?」
「そうかな?」
大きな斧を持った屈強な男が長剣を持った細身の男と戦っている。
「あの、あれは何をしているんですか?」
「嬢ちゃんは見るの初めてか?あれは決闘のようなものだ。あの細身で綺麗なお方はお貴族様でな時折、街中で腕試しとしてこうした決闘を挑める」
「お貴族様……ケガさせたら大変なんじゃ」
「あの方はお強いから滅多にケガをしている姿はみない。もしケガをされても後ろに僧侶が控えているから心配はないそうだ」
確かに少し見ただけであのお貴族様が強いのが良く分かる。最初は押されていると思っていたのに今は斧を持った男を身のこなしで翻弄している。
「これで終わりだね」
「くっ、参った」
勝敗はお貴族様が首元に剣を向けたことで決まった。大きな斧を振り回して疲れている男とは違い、お貴族様は息切れすらしていない。
「さて、もう一人くらい戦いたいと思っているんだけど誰か挑戦者はいるかい?誰でも大歓迎だよ」
お貴族様が大勢に問いかけるが誰もいない。あれだけの実力を見せられて戦うのは相当な自信家だけだろう。それにお貴族様に刃を向けるのは躊躇ってしまう。
「いないのかい?僕に勝てたら銀貨50枚だよ」
「私がやります!」
「嬢ちゃん!?」
あ、やば……お金に釣られて名乗り上げちゃった。
勇者の妹は待ちきれない 千矢 @Kaochihosi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。勇者の妹は待ちきれないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます