第3話 目を覚ましたら
ポカポカな暖かい魔力を感じて、私は目を覚ました。
「あ、起きた」
目を開けた先には、見知らぬ人の顔がこちらのことを覗いていた。
この人は誰だろう、そもそも何故私は倒れて……。
「痛っ!」
「まだ動かない方がいいと思うわ」
立ち上がろうとしたら激痛が走り、立ち上がることが出来なかった。
そうだ、思い出した。レッドグリズリーに襲われて何とか倒したんだ。
「ごめんなさいね。回復魔法はあまり得意ではなくて、暫くジッとしてもらえる?」
「あの、ありがとうございます」
この暖かい魔力が回復魔法……優しく、とても心地いい。なんだか眠く――
身体の疲労は限界のようで睡魔には抗えず、私はゆっくりと目を閉じていった。
・・・
・・
・
「はっ!良い匂い!」
それはもう、飛び起きるくらいの美味しそうな食べ物の匂いで目が覚めた。
「今度こそ起きたわね、治療は完了しているからゆっくりなら動けると思うわ」
この声は私を回復魔法で治療してくれた人……?多分そうだ。
「あの、助けてくれてありがとうございます」
「どういたしまして。って言っても回復魔法をかけただけだけどね」
ぐー……。
「あっ」
身体の疲れのせいか、かなりの空腹でお腹が鳴ってしまった。目覚めてからずっといい匂いがどこからか漂っているのも原因の一つだろう。
恥ずかしさで顔が赤くなっているのが自分でもわかる。
「ふふ、ご飯なら貴方の分も用意してあるわよ。向こうにいる男が作っているわ」
「でも……」
「遠慮なんてしなくていいわよ」
治療をしてくれたのにご飯まで貰うなんて申し訳ない。と思いつつ空腹には抗えずに立ち上がる。
立ち上がった瞬間、フラッとして倒れそうになったが女の人が支えてくれた。
「怪我は回復魔法で治っても血までは戻らないから慎重に、ね。ご飯は逃げないわ」
「はい、ありがとうございます……」
支えてもらいながらご飯を作ってくれている男の人の元へと向かうと美味しそうなスープが入った器を目の前に出される。
「自信作だ。沢山作ったから存分にお代わりしてくれ」
「はい!」
私が作った素材そのものの味がする肉と違い、香辛料が使われていてしっかりとした味付けで沢山お代わりしてしまった。ご飯を食べている時に、簡単な自己紹介な雑談をした。
私を治療してくれた女の人がエレノーラさん、そしてご飯を作ってくれた男の人がガイアさん。二人はAランク冒険者でレッドグリズリーを倒すために王都から来たらしい。
「ほう、兄を探すために魔界に行きたい、か」
「勇者の妹ねぇ。それならあの実力にも納得だわ」
「何かお兄ちゃんについて知りませんか?」
「勇者の行方は知らないが魔界の行き方なら多少分かるぞ」
「そうね。わたくしもガイアと同じで魔界の行き方なら知っているわ」
なんと二人は魔界の行き方について知っているようだった。私は二人に行き方について聞いてみる。
「規則は不明だが、稀に魔界へと続く空間……ゲートと言われるものが現れる。それこそ街中だろうがどこでもな」
「ちなみに王都や大きな街は結界があるから大丈夫よ」
「じゃあそのゲートに飛び込めば魔界に行けるんですか?」
「無理だ」
「無理ね」
意外と簡単に行けると思ったのにそう簡単にはいかないらしい。
話を聞くにゲートには大きさがあり、基本的に現れるゲートは小さく、小さなゲートは魔物や魔族などしか通れないとのこと。魔界の魔物は強力でかなりつよい魔物が多いらしい。魔族なんて現れた日には王国兵士全員で相手にして尚、かなりの被害を及ぼす強敵と二人は言っていた。
「マヤが倒したレッドグリズリーも魔界から現れた魔物だろう」
「あんな巨体なのに小さなゲートから現れるなんて不思議よね」
「なるほど……」
確かに村にいた頃でも急に強い魔物が現れたりして村長が慌てて王都や周辺の街の冒険者ギルドに討伐依頼を出していたのを覚えている。魔界のゲートが原因だったのか。
「それなら私が入れるほどの大きなゲートは……」
「人が入れるゲートは俺は見たことがない、があるにはあるようだ。時々、行方不明になる事件のほとんどが誘拐だが一部はこれが原因だろうな。」
「あと入ったり出てきたりするとゲートは消えるから制限があるっていうのをどこかで聞いたわ。勇者が突入したゲートは特別大きかったそうよ」
詳しい話は国のお偉いさんや研究者しか知らないらしい。私みたいなただの平民相手では話どころか王宮にも入れてもらえないだろう。
「うーん、マヤちゃんが手っ取り早く王宮に入れてもらうなら兵士に志願するのが一番かしら」
「兵士になったとして、話を聞いてくれるくらい出世するのにかなりの時間がかかるぞ。勇者の安否が不明なのに時間はかけたくないはずだ」
二人が色々と考えてくれたが結果は出ず、一夜を迎えた。
「おはようマヤちゃん、よく眠れたかしら?」
「はい、見張りをしてくれてありがとうございます」
起きて用意してくれた朝ごはんを食べる。とても美味しかった。
「さて、王都に向かいましょうか」
「レッドグリズリーの報告もしないとな」
「そういえばレッドグリズリーどこへ……?」
いまいま気付いたのだが倒したレッドグリズリーがどこにも見当たらない。
「すまんが放置していると他の魔物が寄ってくるから魔法の袋に入れさせてもらった」
「いろんな物が入って便利よ。マヤちゃんも冒険者になるなら買うのをお勧めするわ」
そんな便利な魔道具があるのなら買ってもいいかもしれない。お金が貯まればだけど。
「ちなみに、おいくらです?」
「容量の少ない安いやつで金貨5枚くらい?かしら」
「あー、無理ですね!」
「俺のは大きいやつだから金貨100枚くらいか?」
とにかく、今の私は到底手に入れようの無い物というのが分かった。今後の方針はゲートの情報を探しつつ冒険者としてお金を稼ぐことにしよう。
「話は変わるけどマヤちゃんに聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」
「なんですか?」
「マヤちゃんが使っていた魔法なんだけど、見たことない魔法だったから気になってて、良ければ教えてくれないかしら?言いたくないなら言わなくて大丈夫よ」
「《フラッシュ》の事ですか?あれはお兄ちゃんが使っていた《ライト》っていう魔法を見て思いついたやつですね。強く魔力を放ったら出来ました!」
ある日お兄ちゃんに見せてもらった魔法を思い出す――
◆◇◆
『マヤ!これが魔法だぞ《ライト》』
お兄ちゃんの指先から出る優しい光が照らす。初めて見る魔法に私はとても興奮した。
『すごい!魔法だ!』
『まだ簡単なこれしかできないけど今度はかっこいい魔法を見せてあげるからな!』
『うん!待ってる!』
◆◇◆
「っていうことがありまして、結局見せてもらったのはそれだけなんですよ。お兄ちゃんが帰ってきたら驚かせようと思って《ライト》を覚えたんですけど魔力を込めれば光が強くなることに気づいて完成したのが《フラッシュ》です」
「そうだったのね。マヤちゃんはいい魔法剣士になると思うわ」
エレノーラさんが魔法剣士になれると言って私は疑問に思う。
「っ?私は魔法剣士ではないですよ、ただの剣士です」
「嘘っ!?魔法を使える剣士なんているの?」
「これは驚いた」
二人が驚いているので話を聞くと私のクラスである剣士は下級職で魔法どころか魔力も持っていないのが普通らしい。
「上級職の魔法剣士や聖騎士、剣聖が有名な前衛職で魔法が使えるクラスね」
「魔法使い、魔術師、僧侶など後衛職のクラスなら下級、上級関係なく魔法が使えるものが多いな」
「お二人はどんなクラスなんですか?」
「わたくしは魔術師よ。魔法使いの上級職ね」
「俺は重戦士。戦士の上級職だな」
やはり二人とも上級職らしい。強くなるのには上級職になるのが一番なのだろう。
「私も上級職になった方がもっと強くなれますかね?」
「それはもちろんなのだが……」
「転職は厳しいわね……」
そう簡単には転職出来ないようだ。転職するには大神官というクラスの人が必要でその人は私たちが今いる国、サマトール王国に一人しかいなく、転職は国の許可を貰った者や金を積みまくった貴族さまくらいらしい。
そのため、平民は最初にもらったクラスで一生を過ごすと。
「金を積んだところで上級職になれる才能が無ければ転職出来ないがな」
「そうなのよ。マヤちゃんみたいな才能の塊で下級職の人たちは大勢いるわ」
才能の塊なんて言ってくれたが私はまだまだ弱い、お兄ちゃんに負けないくらい、いや助けられるくらい強くなってやるんだ!
「転職は無理だけど神官なら鑑定でスキルを教えてくれるからお金に余裕が出来たら教会に寄ってみるといいわ」
「スキル……」
私が持っているスキルは12歳で神託した時に教えてもらった【剣術】だけだった。あれから3年も経ったし何か新しくスキルを習得していてもおかしくはない。
「あ、王都が見えてきたわね」
「道中、魔物もなく平和だったな」
「あれが王都……大きい」
高い城壁に囲まれた大きな街、私の村なんてちっぽけで比べるのも失礼だね。
城門に近づくと案の定、兵士に止められた。周りの人は素通りだったの私が止められたのは衣服がボロボロで小汚いからだろう。
「待て、身分証を」
「え、身分証がいるんですか?」
「初めて王都に入るには身分証がいる」
どうしよう、身分証なんて持っていない。
「マヤちゃんなら大丈夫よ。わたくしが身分を証明するわ」
「足りないなら俺も証明しよう」
「エレノーラさんにガイルさん!お二人が仰るなら信用いたします。仮の身分証を作成致しますので少々この者をお借りしてもよろしいでしょうか?」
この二人は本当に凄い人なのだとこのやり取りだけで分かる。私は詰所で仮の身分証を貰い、王都に入る事が出来た。
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