第2話 1人旅を舐めてた

 王都を目指してから数日が経った。

 食料や水は特に問題なかったが睡眠をとるのがかなり難しかった。


「1人旅を舐めてた」


 1人だから魔物を警戒しないといけなく、まともに寝れなかったのだ。途中、村や集落っぽいのがあったけど宿などは無さそうだったから無視したのも睡眠不足の原因かもしれない。


「次からはお金を惜しまず馬車に乗ろう……」


 なんて言いながら重い足取りで王都へと向かう。

 途中の村から馬車に乗れば良いじゃんと思うかもしれないがここまで来たらそれはそれでお金が勿体ない気がして乗れないのだ。


「あと1日くらい歩けば王都に着くはず」


 王都の宿……高いんだろうなぁ。魔界の事を調べるよりも先にお金を稼がないと……アルバイトでもしようかな。こんな田舎者を雇ってくれる場所があるかはわからないけどね。


「お腹空いたし何か狩れる動物いないかなー」


 今の食料は昨日拾った木の実くらいしか無い。別に1日くらいなら食べなくても平気か。

 逆に今までが運良かっただけなのかもね。お腹いっぱい食べれたし。


「ん?あれは……」


 動く何かが私に近づいているように見える。遠くてよく見えないけど動物っぽい?

 動く何かが分かるくらい近づいてみる……。


「やばっ!あれ魔物じゃん!」


 動く何かの正体は大きな熊の魔物……赤毛が特徴的なレッドグリズリーだ。

 とても危険な魔物と村の人たちから聞いたことがある。


「逃げ……れないよねぇ」


 とてもじゃないがあの巨体では逃げてもすぐに追いつかれてしまうだろう。

 近づきすぎたのが原因だ。そして遠くからでも私を見つけるくらい目も良いときた、戦うしか無いだろう。


「私はお兄ちゃんを連れて帰るまで死ぬわけにはいかない!」


 剣を構えてレッドグリズリーの様子を伺う。

 お兄ちゃんを待っている間、私は何もしていなかったわけじゃ無い。剣の練習をずっとしてきたんだ。

 昔見せてくれたお兄ちゃんの動きを思い出してただひたすらに剣を振り続けただけ。実践経験なんてない。


「はやっ!」


 レッドグリズリーが腕を上げたと思ったら凄い速度で振り下ろしてきた。

 なんとか剣で受け流したが凄い衝撃で手が痺れてしまい、剣を落としてしまった。


「すぅーはぁ、大丈夫」


 お兄ちゃんは何かトラブルがあっても焦ったりしなかった。この絶体絶命な状況だろうとお兄ちゃんなら冷静に対処するだろう。


「さっきのでどれくらい速いかは分かった」


 手の痺れはまだ取れない。時間を稼いで痺れが引くのを待つしかない。

 レッドグリズリーが猛攻撃を仕掛けてくる……。

 致命傷は避けろ、多少の傷は我慢だ。

 身体全体を使ってなんとか避けようと頑張るがレッドグリズリーの鋭い爪が私を襲った。


「痛……」


 腕や足、横腹などに軽く当たっただけなのに血がダラダラと流れていた。

 そんな事を気にせず、私は足元にあった小石を蹴る。小石は運良くレッドグリズリーの目元に当たった。


「グルルル……」


 レッドグリズリーは唸りを上げて怒り、鋭い爪で攻撃してくる。

 私は咄嗟に倒れて、転がり攻撃を避けた。


「ぺっ!」


 口に入った土を吐き出し、転がった剣の位置を確認する。

 視界が真っ赤に染まっていて目を開けるのも辛い。負傷した頭から流れた血が目に入っているのだろう。


「グルルァ!」


 レッドグリズリーの猛攻から避け続け、短剣を握れる程には回復していた。しかし短剣程度では皮膚に傷をつけることすら出来ないだろう。


「狙うべきは……!」


 私は自らレッドグリズリーに向かい、攻撃を避けた。

 随分と攻撃を見させてもらった。1回くらいなら確実に避けれる自信があった。


「これでもくらえ!《フラッシュ》」


 指先に魔力を込めて渾身の魔法を放つ。

 指先から小さな光る球体が現れ、弱々しい光りが突然と激しくなった。


「グルルル!」


 強い光にやられて視界を奪われたレッドグリズリーが自身の周辺で暴れ回る。

 私はその隙に短剣を握りしめて、渾身の一撃をレッドグリズリーの目玉に突き刺した。


「まだ……!」


 不意の攻撃で怯むどころかさらに暴れ回っている。


「剣、私の剣!」


 転がった剣を急いで拾う。手の痺れはだいぶ良くなった、レッドグリズリーの視界が回復する前に次の攻撃をしなければ私は死ぬ。


「お兄ちゃん……力を貸して」


 長剣といえどこれは安物、レッドグリズリーの皮膚を切れるとは限らない。でも私は知っている。ただの木の枝で巨大な岩を切り裂いたお兄ちゃんという存在を……。


「これで!終わりだー!」


 全力の魔力を込めた剣をレッドグリズリーの首に向けて攻撃する。


「グル……」


 それはなんの迷いもなく頭と胴体を別れさせた。


「あはは……お兄ちゃんが力を貸してくれた」


 魔力に耐えられなかった剣は崩れ、私もまた意識を失った。


――???side――


「レッドグリズリーが現れた?」

「ああ、国には連絡済みだが兵の召集に時間がかかるらしい。それでは周辺の街や村に多大な被害が出てしまう」

「それで俺たちが討伐しろと」

「君たちの実力なら問題ないはずだ。報酬は国からも出る」

「まあ、他の奴らには荷が重いな。任せておけ」


 男は立ち上がり、外に出る。買い食いをしている仲間を見つけて呼び出した。


「仕事だ。行くぞ」

「また面倒な仕事を押し付けられたの?」

「そんなところだ。レッドグリズリーが現れたらしい」

「これまた厄介な魔物が現れたわね……。確かにその魔物なら私たちの出番ね」

「すぐに準備してくれ。急ぐぞ」

「はいはい」


 男と女はすぐに王都を出てレッドグリズリーが目撃されたという場所まで向かった。


「ストップ。この先、探知魔法に大きな反応があるわ。馬から降りましょう」

「了解」


 二人は馬から降りる。


「まずいわね。誰かが襲われている」

「なに?!助けるぞ」


 少し歩くとレッドグリズリーが暴れていた。

 暴れている原因は明白、全身から血を流し倒れている少女。しかし微かに動いている為、生きていることは分かる。


「まだ生きてる。今助けるわ!」

「待て」


 助けようとした女は男によって止められた。


「何するのよ。見殺しにする気?」

「少女が立ち上がった。まだ戦う気だ。冒険者なら獲物を奪うわけにはいかない」

「それはそうだけどあの子はもう限界よ?勝てるわけがないわ」


 女は男の制止を振り切って助けようとする。その瞬間、目を開けていられない程の強烈な明かりが襲ってきた。


「これは少女の魔法か」

「眩し……こんな魔法見たことないわね」


 微かな視界の中、男と女が見た光景は少女がレッドグリズリーの首を切る姿。


「助ける必要はなさそうだな」

「そうみたいね」


――――――――――――


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