勇者の妹は待ちきれない

千矢

第1話 旅立ち

 私には自慢の兄がいる。優しくてカッコいい、最高のお兄ちゃんだ。

 お兄ちゃんが12歳になったある日、お母さんと一緒にお兄ちゃんは教会へと出かけて行った。 そして帰ってきたお兄ちゃんは喜びの表情でお母さんは喜びの裏に悲しそうにしているような表情をしていた。


「マヤ!俺、勇者だった!」

「…………?」


 お兄ちゃんは私を見つけた瞬間に肩をガシッと掴み、勇者だと言ってきたのだ。

 私はお兄ちゃんの言っている意味が分からず困惑してしまった。


「勇者って?」

「なんか人々を救う英雄?らしい!教会の偉い人が言ってた。これで毎日毎日、魔物から怯えて過ごさなくて良くなるって!」

「本当?私も外に出て遊べるの?」

「もちろん!俺がマヤを守ってやる!」


 なんてカッコいい事を言っていたのを今でも覚えている。

 幼い私にはよく分からなかったが後から教会に行ったのは自分のクラス……まあ、いわゆる適正職業みたいなものを判別するという事を知った。

 お兄ちゃんは勇者になってから数日後、国の偉い人がこんな田舎の村までやってきて王都に連れて行ってしまった。


「マヤ!帰ってきたぞ!」

「お兄ちゃん!久しぶり!」


 お兄ちゃんと会えたのはたまにお休みを貰って帰ってくる時だけ。それでも私はとても嬉しかった。王都で買ってきてくれたお菓子を食べながら色々な話を聞いたりしていた。


「いやー、たまにしか帰れなくてごめんな?」

「ううん、帰ってきてくれるだけで嬉しい」


 そんな日々を過ごして3年、お兄ちゃんが15歳になる誕生日に家に帰ってきた。誕生日なはずなのにお兄ちゃんはどこか表情が暗く……覚悟したような顔をしていた。


「父さん、母さん、マヤ……本格的に魔界への進軍を始めるみたいで俺が精鋭部隊のリーダーとして出ることになった」

「そう……」

「そうか」

「もう帰ってこれないの……?」


 お父さんとお母さんは悲しそうに俯き、私はお兄ちゃんが遠くに行ってしまうと引き留めようとした。


「いいや、必ず帰ってくるからここで待っててな」

「うぅ……必ず帰ってきてね――」


 そして次の日にお兄ちゃんは行ってしまった。

 お兄ちゃんが魔界に行って3年経った今、いまだに一度も帰ってこない。


・・・

・・


「じゃあ、お兄ちゃんを探しに行ってくるね」


 お兄ちゃんが帰ってくるのをずっと待っていた。明日には帰ってくるかも、明後日には……って。

 3年も我慢した。でももう限界!待てない!お兄ちゃんに会いたい!


「お兄ちゃんを見つけたら必ず帰ってくるんだよ」

「気をつけてな」


 お父さん、お母さんは笑顔で私を見送ってくれた。本当は行かせたくないって思っているはずなのに。


「お兄ちゃんは魔界に行くって言っていたよね」


 魔界はどこにあるんだろう……?とても危険な場所としか聞いたことがない。

 村の人たちに聞いても同じような事しか分からなかった。


「まずは王都で行き方について調べようかな」


そう思い、王都行きの馬車を探す。


「見つけた。おじさん、王都行きっていくら?」

「マヤちゃん?王都に行きたいのかい?マヤちゃんなら銅貨2枚で良いよ」

「うっ、銅貨2枚……」


 知り合い価格でだいぶ安くなっているのだろうがそれでも私にとってはかなりの金額だった。

 私の全財産は銅貨10枚、ここで2枚使うのはかなりの抵抗感がある。


「や、やっぱり良いや。ごめんね、歩いて行くことにするよ」

「うーん、顔馴染みとしては乗せてあげたいけど……商売だからこれ以上は値下げ出来ないなぁ。一人歩きは危険だから色々と気をつけて」

「本当、ごめんね。気をつけるよ」


 こうして私は歩いて王都へ向かった。

 ポカポカと暖かな日差しもしばらく歩くと暑さを感じて汗も出てくる。


「……ん」


 満タンだった水袋も少しづつ減っていく。ちゃんと地図は持っているからこの先に川があるのは分かっている。沢山飲んでも補充が出来る。


「お、あれは……」


 遠くの方に何か動くのが見えた。あれは兎かな?


「貴重な食料だ、逃がさないように仕留めるぞー」


 腰にある剣を抜いて構える。そして――


「いや、咄嗟に剣を構えたけど距離遠いしまだバレてないから短剣でいいじゃん」


 抜いた剣を納めてから短剣を取り出す。兎は動いていない、草を食べるのに夢中にだ。


「ゆっくり、バレないように……」


 限界ギリギリまで近づいてから短剣を投げた。短剣は見事に兎に突き刺さり、倒れてもがいている。


「やった!食料ゲット」


 瀕死の兎に止めを刺して軽く血抜きなどの処理をする。血の匂いで魔物が寄ってくる可能性があるので私はこの先にある川に向かって急ぎめで歩いた。

 血まみれになった短剣を綺麗に洗い、兎を食べやすいように解体していく。


「まあ、私が食べるだけで売るわけじゃないし適当でもいいか」


 だいぶ雑に解体して袋にしまい、引き続き王都を目指した。


――――――――――――――――


 本日はもう1話投稿する予定です。

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