第3話
放課後を知らせるチャイムが鳴る。
「なあ下鶴。今日のあれ、どういうことだ?」
そそくさと近づいてきて、そう声をかけてきたのはクラスメイトの
そして「あれ」というのは、もちろん
クラス替えした当初は学年一の美少女である三月と席が偶然隣同士になって、内心ラッキーと思っていたのだが、このような関係性になると、席が近いことはややこしいことこの上ない。
「どういうことだ、と言われても、こっちが聞きたいくらいなんだよ……」
「なんだそれ。確かに話してるとことか見たことないけど、前から三月と仲良かったのか?」
笹波がよくわからないといったような顔をした。こんな話誰だって困惑するだろう。
「それが話したこともないんだって」
「本当かよ。席も隣同士なのに」
本当なんだよ、と返すも信憑性は薄いだろう。だがそれが事実なのだから、そう答えるしかない。俺はため息をつくしかなかった。
***
笹波の話によると、三月が俺に告白したという噂は、この数時間で学年中、というか全校レベルにまで広まりきったらしい。
それもそのはずで、三月を狙っていた男子は学年問わず大勢いる。前に聞いた話では、バレンタインデーなのに男子から三月へとチョコがたくさん贈られたらしい。
というのは、ちょうどバレンタインデー前に「三月に彼氏がいない」という情報が流れ、「ホワイトデーまで待っていると誰かに三月が取られるかもしれない」という危機感を持った男子が、一斉にチョコを用意したからなのだという。そしてもちろん結果は全員玉砕だった。
「蛍。帰るよ」
名前を呼ばれて振り返ると、そこには三月がいた。
改めて三月の顔をじっと見てしまう。三月葵は、透き通るような白い肌を持った、まさに「クールで可憐」と呼ぶにふさわしい美少女だ。
少し面長の顔に、ぱっちりとした大きな目が特徴的だが、その黒い瞳はどこか鋭く冷たい印象を与える。感情をあまり表に出さないのも相まって、冷やりとした空気を感じさせることがあり、奥ゆかしい雰囲気を与えている。
その容貌につい見とれていると、
「何ボーっとしてるの。プランがあるんだから早く」
とよくわからない急かしを受けた。笹波を横目で見ると、明らかに不審がっている。
俺もプランってなんだと思ったが、そもそも今日の三月はちょっと変だ。いやかなり変だ。普段の三月はその美貌に加えて、口数が少ないことが謎めいた雰囲気を際立たせており、とにかく余計なことを言わない印象がある。
三月は普段から他人と必要以上の関わりを持たないが、その分一度発する言葉には芯があり、まっすぐに言いたいことを伝えるタイプだと思う。友人もいるようだが、はしゃいでいる様子は見たことがなく、むしろいつも淡々としているようだ。
それが今日の三月はどうだ。「ねえ下鶴さん。私と付き合ってみない?」という突然の交際宣言。「名前も知らない男子に突然告白するの、ドラマチックだと思わない?」という謎の恋愛観。
極めつけは、胸を押し当てて「ああこれ。これね、蛍に当ててるの。こうしないと外歩けないでしょ」という衝撃的なセリフ。あの状況で生きていられる男子などいるのだろうか。今もあの柔らかい感触が腕に残っている……。
いや、というか、俺に突然交際を申し込んでいるのがおかしすぎる。天地がひっくり返ってもありえない話なのだから、どうにかして本当のところを聞いておく必要があるだろう。もしかしたら誰かに脅されてこんなことをしているのかもしれない。
そうなれば話は別だ。もし罰ゲーム的に三月が俺に交際を申し込んだのなら、一刻も早く解消しなければならない。それは変な噂が立って俺が困るという以上に、三月がかわいそうだから。
とにかく、困惑したり浮かれたりしている場合ではないのだ。
「三月さん。これから大事な話があるのでついてきてもらえますか」
どこか別の空き教室まで連れ出して、真相を明らかにしよう。学年一の美少女と数時間だけ付き合っている状態にあったというだけで、俺は幸せだ。もしいじめられていたりするのであれば、誰かに助けを求めてもいい。
「嫌よ。これから駅前のカフェに二人で行って、ラブラブなデートをして、愛情スコアを上げなきゃ。それから一緒に二駅先まで移動して、映画を見ましょう」
えぇえええ???
混乱しているのもつかの間、三月は俺の腕をぐいとつかんで、教室の外へと連れ出していった。
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