第2話
「ねえ下鶴さん。私と付き合ってみない?」
「え」
「ねえ。何びっくりしてるの??」
見かければはっと息を呑むように可憐な美少女・
同時にクラスの男女の視線が自分たちに集まるのを感じる。そりゃ当然だ。あれほど可憐なのに、これまで三月に恋愛の噂がかけらも立たなかったのは、そのクールさとミステリアスさゆえだった。「三月さんって恋愛に全く興味ないんじゃない?」と話す三月ファンも少なくなかったのだ。
しかし、その三月はいま俺に向かって、さも当然かのようにお付き合いを要求している。
あまりに困惑しすぎた俺は、強がる返答を返す余裕すらもなくしていた。この状況に置かれた男子は誰でも、興奮より恐怖や困惑が勝ってしまうだろう。
「付き合うって……どういうことですか、三月さん。今まで話したこともないし、きっかけもないし、というかそんなかっこよくないし、友達も少ないし……」
「あーもうべらべらうるさい。私と付き合ってくださいって言ってるの。それだけ。何か不満でもあるの?」
「いや不満というかなんというか、すごくうれしいんだけど、理由が全く見えないから……」
クラスの男子がうんうんと頷いているのが横目で見えた。
ちょっと怒っているようにも見えるが、俺も気持ちはよく分かるよ。この状況を一言で表すなら、そう、「理不尽」だから。
そこで三月はおもむろに、衝撃的な言葉を口にした。
「理由というか……名前も知らない男子に突然告白するの、ドラマチックだと思わない?」
え、どういうことですか三月さん?
「とにかく私は
いや俺の名前知ってるじゃん!
三月の顔をこっそりうかがうと、「淡々と言ってやった」というような満足げな顔をしている。しかし、たった今犯した決定的な間違いには気付いていない様子。もしかして三月って意外とポンコツなのか……というかそうじゃなくて!
「と、とりあえず三月さん、移動教室行こうか」
「葵って呼びなさい、あなたは彼氏なんだから。一緒に行くわよ」
逃げるようにクラスを出ると、後ろからザワザワし始めたのが聞こえた。絶対これからめんどくさくなるやつだ……。
教室を出ると、ふと三月が身体を密着させてくる。
「!!!」
腕のあたりに柔らかな感触がする。三月はそんなにはっきりしたスタイルではないと思っていたが、服越しにでも胸が当たると、否応なくそれが大きいほうだということが分かってしまった。
「あ、あの三月さん、胸が……」
「ああこれ。これね、蛍に当ててるの。こうしないと外歩けないでしょ」
どういうことですか三月さん!?
ふと隣をみると、息がかかりそうなくらい間近に、三月の端整な顔立ちが迫っている。というか首元にやわらかい息がかかっている。
今まで女性経験皆無だった俺には刺激が強すぎる。途端に心臓が脈打っているのを感じる。学年一の美少女とカップルとして歩いていることを認識してしまい、すっかりあがってしまった。耳の先まで赤いだろう……急に恥ずかしい。
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