閑話 お料理を決めてると・・・

今日、ハリソンとリリーは職員用の厨房へやって来た。結婚披露の宴の料理の打ち合わせだ。


リリーはお任せでいいのだが、ハリソンがいろいろと頼みたいと言うことで二人でやって来た。


「よくお出で下さいました。ここのお料理を希望して下さいまして・・・ほんとに末代まで・・・」と感激して最後まで言えない料理長にリリーは


「こちらこそ、いつも美味しいのをありがとうございます。そちらがここに来ると聞いた時、ほんとうに嬉しかったし、ここの食事はどれも美味しくて、ほんとお城で働いてよかった」と言った。


ハリソンも


「ほんとだね。ここのはどれも美味しい」と言った。


リリーはテーブルに並べてあるボールを見て


「これはなに?」と聞いた。


「それはゼラチンです。水で充分戻して、鍋で溶かして果汁やお酒を加えてゼリーとかムースにします。今日は林檎でゼリーですよ」と料理長が答えると


「おぉ、これがあのゼリーに・・・作るのを見ても?」とリリーが言うと


「いいですよ。もう少し、したら作りますから、打ち合わせを・・・ご希望のものがありますか?」


「ゆで卵を使ったモノ・・・普段、サンドイッチが美味しいけど、変わったものを」


「そうですね・・・パイにしてみますか?ミートパイのお肉の変わりに卵をいれて小ぶりに作りましょうか?・・・それと甘くないプリンはいかがですか?今日のお昼に出すんですが、試食で美味しかったんですよ」


「いいねぇ、お昼もここで食べるからちょうどいい」とハリソンが答えた。


そこに料理人が、遠慮がちに声をかけて来た。


「あの、これは火にかけて煮溶かしていいですか?」とゼラチンのボールを指した。


料理長は立ち上がって確認すると


「いいぞ、温度を上げすぎないようにな」と答えた。


「それを見学していいですか?」と二人は言うと、緊張している料理人の後ろに立った。


料理人はやりにくそうに、作業を続けて、果汁を入れたゼラチン液を容器に入れていった。


容器の周りに溢れたゼリー液を布巾で拭きながら作業を続けていく。


ゼラチン液を容器に入れる時にリリーが


「あぁもう美味しそうだわ」とか「早く固めたい」とか「これは晩に出るのよねぇ」とかうるさいのをハリソンが


「煩くてすみません」とか「そうですね。美味しそうですね」とか言い続けて、いつのまにか料理人も固さがとれて


「おやつの時間には固まってますので、こっそり味見しますか?」とか返事をするようになった。


ふと、リリーはゼリー液を拭き取っていた布巾がごわごわになっているのに気づいた。


「その布巾はゼリー液が固くなったの?」と言うリリーの質問に


「はい、そうなんですよ」


「ちょっとみせて!」といきなり態度が変わったリリーに料理人はびっくりして、丁寧に布巾を差し出した。


布巾を広げてたり、くしゃっと畳んだりしていていたリリーは、料理人の手を取ると


「凄い、発見よ。ゼラチンを沢山買っておいて」と言うと料理長の方を向いて


「おやつにゼリーを食べにくるから、魔法士誘って、またね」と言うと急いで出て行った。



ハリソンは


「料理はお任せで、さっきのパイは必ずね。でもまた来るかも」と言うとリリーを追った。



その後、魔法士隊長のブルースが調整して、カーテンの生地とシーツの生地が集められた。


どちらもゼリーに浸して実験した結果、シーツ生地が採用された。


シーツで作った海坊主の下に籠が取り付けられた。乗り手は騎士団の志願者だ。


これには魔法士から猛抗議があった。しかしブルース魔法士長は


「魔法士による実験は禁止だと言っているだろう。今回は騎士団が首都を守る配置を見直すしたいというからついでに乗せるだけだ」の一言で譲らなかった。



コンロの火の調整の練習をしっかりとやったその騎士団員は、魔法士の恨み、羨望の眼差しと、騎士団の期待と心配の視線を浴びて、空に舞い上がった。


「いいなぁ」「コリンがんばったかいがあるな」「これで畑の状況が把握しやすくなる」「あいつ、引き抜こう。いつでも実験ができる」と魔法士は上を見ながらお互いに感想を述べていた。


だが、実験に失敗はつきものだ。海坊主の頭のてっぺんから燃えてしまったのだ。派手に炎がでなかったが、てっぺんがなくなった海坊主は、いきなり落ちてきた。


万が一に備えていた水魔法が得意な者の水と、リリーの治癒魔法が、空中にいる騎士団員に浴びせられた。


途中、風使いが下から籠を上に上げようとしたが、狙いがそれて籠が傾き騎士団員は籠から投げ出され、そのまま地面に落ちた。その上に籠が被さった。


皆が駆けつけたが、騎士団員はさすが速かった。と籠が跳ね除けられ、びしょ濡れの団員が出てきた。



「おまえ、怪我は?」


「いえ、鍛えてますから。それを見込まれたんですよ」とその団員は髪の毛から水を垂らしながら答えた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 07:03 予定は変更される可能性があります

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。 朝山みどり @sanguria1957

作家にギフトを贈る

カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?

ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ