24 お二人が帰ったあとで

ハリソン様は無駄なことはせずに、いきなり話し始めた。


「去年、パーシー殿が怪我させた馬がいたが、それにリリーが学院で競技会で乗った。あの馬をあそこまで見事に回復させた秘密を教えて欲しい」


「あぁあの馬ですか?酷い状態でしたね。

諦めてましたが、休ませて声をかけました。

お嬢様が乗られる時もお嬢様も声をかけてましたね」とわたしをみるから

「えぇ、痛がるとすぐに騎乗をやめて、『いいのよ、我慢しないでって』って言いました」


「餌も最初に配るとかして、大事だって言うのを示しました。そしていい人が貰ってくれたってお嬢様に教えて貰って安心しました」

「そうか。餌を最初に・・・確かに特別ってわかるかな・・・」とハリソン様は笑うと厩舎の馬全部を撫でた。


お二人は厩舎から出るとそのまま、馬車に乗って帰って行った。



「お姉様。どうしてそう考えなしなんですか?ハリソン様にお茶も出さないで」

厩舎から戻るなり、アナベルが言って来た。


「お茶を飲む暇はなかったわ」

「せっかく、いらしたのですよ。わたしに会いに。それなのに」

「アナベル。あなたに会いってなに?」

「学友として・・・」

「学友として?」

「親しい友人を・・・」

「親しい友人を?」


「リリーお二人はお帰りになったんですって?」と母が参戦して来た。

アナベルを楽しくいじめていたのに。


「はい、お忙しい方たちですので」と答えた。知らないけど・・・


「お二人はわたしのことでお父様とお話する為にいらしたんですよ。説明を聞いて納得して署名もしました」


いけない、うっかり署名しちゃった。ナタリーのお父様に見せようと思っていたのに・・・



「お姉様、働くんですか?」


「はい。そうですよ」


「あなた、結婚は?ロバート様はアナベルよりあなたと合ってると思うのよ」と母が蒸し返した。


「合っていません。誕生日に便箋とかペン軸を贈って来て、婚約がなくなったら返せと言う男ですよ。

そんな男と合ってるなんてごめんです。

おまけに弱いし。アナベルにピッタリですよ」


「リリーなんてことを言うの。ロバート様と結婚なさい。あなた彼のことが好きだったのでしょ」

「だから?なんですか?彼はアナベルの婚約者です」


そこに父がやって来た。

「リリー魔法が使えるってどうして言わなかったのだ?」

「聞かれなかったからですよ。

わたし、お父様から話しかけられたことなんかないですよ。せいぜいこういう廊下の立ち話。

それに言わなかったけど、見せましたよ。

アナベルとロバート様の婚約式で虹を見せました」


心のなかで『素晴らしい虹を』と言い換えた。


そう言うとわたしは三人を置いて部屋に向かった。


夕食はいつもと同じだった。わたしに誰にも話しかけなかった。

「リリー、魔法の競技会は最下位だと言ったな」と父が何気ない風でわたしに言った。

するといつものようにアナベルが先に口に開いた。


「そうですよ。最下位です」

「はい。最下位です」とわたしも答えた。

「それがどうして魔法士部隊で働けるんだ?」

「実力があるからです」と言い切った。


「最下位で・・・」

「その説明をして下さいましたが、理解できなかったのですか?」

「あぁそれは・・・」と父は言葉を濁した。


「厩舎を案内したそうだな」と兄が馬鹿にした口調で言い出した。

「そうなんですよ。お茶を御馳走するべきなのに、考えなしだから」とアナベルも言った。


「ハリソン様の希望です。お父様も聞いてらしたのに」と言うと

「お父様、ひどいですよ。止めて下されば、ハリソン様はわたしとお話出来たのに。

そしたら、もっと親しくなれてお姉様にロバート様を返せたのに」とアナベルが口を尖らした。


「あんなに大袈裟な婚約式をやったのに? 

ハリソン様もいらしたんですよ」


「えぇ、だけどハリソン様、よく考えると、あの時、寂しそうでした。

わたしの婚約でがっかりしたんですわ。

わたし慰めてあげたい」


「でも昔から侍女もお父様もお母様も、アナベルならみんなと結婚出来るって言ってたから、なんとかしてくれるのでは?」ここで、両親がちょっと気まずそうな顔をしたが、なにも言わなかった。


「そう思うの?ロバート様はアナベルが大好きだと思うわ。

だからわたしに返すなんて言ったら悲しむのでは?それに手の痛みがなくなったらまた活躍するでしょ?

騎士団の団員なんてなかなか成れるものじゃないでしょ。

それに去年の内に選ばれたって素晴らしいわよ。

みんながアナベルを羨ましがってる。

知ってるでしょ?」と言うと


「そうよね。今年は運悪く負けたけど、去年は優勝した。それにお姉さまと婚約なんてロバート様が可哀想」


「そうそう、よくわかっているわね」と言うと笑い出す前にわたしは席を立った。



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