23 王宮魔法士部隊からのお客様

「リリー、着替え終わったら説明なさい」とお母様が珍しく話しかけて来た。




「なにをですか?」と静かに問い返した。




「だから、この手紙。仕事ってあるけど?」とお母様も意識して抑えた口調を保っている。




「わかりません」とすまして答えた。




「わからない?」と声が尖った。




「わかるなら説明に来て貰う必要もないかと」と馬鹿にした口調で答えた。




「いい加減にしなさい。説明しなさい」と半分怒鳴って来たので、




「わからないことを説明するにはどうすればいいのですか?お母様だって婚約者を妹に取られたときの態度をまだ説明して下さってないですよ。説明が難しいなら実演して下さい」と肩をすくめた。




「・・・! もう! いいわ。せっかく心配してあげたのに」と言うと母は出て行った。




廊下に出た母にそこで待っていた父が




「どうだった?」と聞いている声がした。ふん!気を揉むといいわ。




そしてお二人がやって来た時、予想通りアナベルも挨拶に出てきた。




「ハリソン殿下、姉の為にわたしも同席します。よろしくお願いします」と父よりも先に言い出した。


「えっとこの方は邪魔です」とブルース様が言うと、アナベルが


「姉は考えなしだから、わたしが」と言った。




「アナベル、礼儀なしだよ」とハリソン様が言うと


「ですが、姉は」と言い出したので、わたしが




「お母様、アナベルを指導して下さい。侍女はなにをしてるのかしら?」と言った。母はわたしを睨みつけると、アナベルを連れて行った。




「こちらへどうぞ」と執事が部屋のドアを開けた。


さっとブルース様とハリソン様が席についた。




お父様が向かいの椅子に座った。わたしは空いた席に座った。




「リリー嬢から聞いたと思うが、王宮魔法士部隊に入るにあたっての説明をします」


とブルース様が宣言した。


「あの、ほんとに娘は入れるのですか?最下位だと聞いてますが」




「はい、最下位でしたね。それがなにか?」とブルース様が言うと父は気弱に




「いえ、なにも」と答えた。




「リリー嬢は二年振りの新人です。学院を出てすぐなんて最年少記録です。わたしでも最初は部隊の見習いとして修行しました。普通は部隊で修行したり他国の魔法大学へ行ってからです。楽しみです。もちろんお父様の許可が必要ですよ。なくても大丈夫ですが」




「そうですか」と父は小さく言った。




「待遇は上級武官からスタートです」




「上級?」と父が驚いた。




「伯爵は中級ですね」と言うブルース様の言葉に驚いた。後で確認したら、兄は下級だそうだ。




思ったより、わたしは、たいした人だったんだ。




「本人の目指す方向で出向もございます。自由な職場で自由な者たちですので、様々ですね。一昨年の新人は魔道具の制作をしております。空を飛びたいそうで・・・もちろんその過程で生み出された物が役に立っております。ご存知でしょ?馬車に取り付けて少し馬車を浮かすことで、馬の負担が減りましてスピードが上がっております。リリー嬢に期待しております」




「さようですか?」




「住居は王宮の一角に用意しております。使用人も必要に応じて派遣しますので、リリー嬢に不自由はありません」




「そうなのですね」




「なにか、質問はございますか?」




「・・・・・・・」




「では、この同意書に署名を」とブルース様は言うと書類を出した。




父は署名をすると息を吐いた。そしてブルース様は




「そうだ、ついでにリリー嬢も署名を」とわたしにも書類を差し出した。




わたしは書類を受け取ると署名した。ブルース様が書類をまとめていると、ハリソン様が




「伯爵、頼みたいことがあるのだが」と言った。




「はい、殿下なんでしょうか?」




「厩舎の見学をさせて欲しい。厩務員と話をすることの許可も欲しい」




「はい、どうぞ、ご自由になさって下さい」




「リリー案内してくれ」とハリソン様は言うと立ち上がった。




廊下に出るとアナベルが待っていて




「ハリソン様、お茶の用意をしております」と言いながら笑みを浮かべたが




「厩舎に行く」とハリソン様は歩みを止めなかった。






◇◇◇◇◇


剣術の場合優勝者は騎士団に入れるのは学院で知られていることです。




魔法士に関しては入るのが難しい所と皆が認識しています。




そこに本戦の最下位が入れるということが、理解できません。




最下位という言い方ですが、父親も家族も出場者全部の最下位とはさすがに思っていません。


ただ、最下位と言う表現はリリーをからかうのに最適だったので、使っています。


リリーもそれを逆手に取って、皮肉を言ったり、意地悪をする気満々です。


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