35.セント・ローレンス修道院② カロリナ司祭


「あれ、リア?その背中に背負った剣はどうしたの?――っあ!さては、ギルボルトお兄ちゃんに、荷物を押し付けられたんだね!?

 ちょっと!僕の使い獣をこき使わないでくれないかな!?もう、油断も隙もあったものじゃないんだから!」

「――エル、違う。これは、ギルボルト師匠から、いただいたんだ」

「……ん?師匠?」


 ――2日目、セント・ローレンス修道院への出発前、エルはリアードが背負った剣を、不思議そうにまじまじと眺め回った。

 危機が迫った時に、リアードが大切なものを護れるようにと、昨夜の修行後にギルボルトが授けた剣だった。


 リアードが師匠と呼ぶギルボルトのことも、エルはじろじろと不躾に眺め回った。


「――っけ!師匠と弟子の秘密なんだよ!狼小僧は狼小僧で、いろいろと主人に言わないだけで、考えてるんだよ、な!」


 自分のことは師匠と呼ばせておいて、未だ弟子のリアードを狼小僧と呼ぶギルボルトだが、この師弟関係をけっこう気に入っていた。

 リアードが主であるエルを想い強くなろうとする覚悟を、ちゃんと買っているのだ。


「皆さん!今日はいよいよ、セント・ローレンス修道院へ潜入し、検閲任務を開始いたしますよ!――どうか、この先に神のご加護がありますように――それでは、出発いたしましょう!」


 ルシフィーが皆の先頭に立ち、出発前に十字を切って神に祈った。


 ◆


「はぁ、はぁ……リア、アイリス、ルシフィー様…待って……。ちょっと――ちょっとだけ休憩…」


 エルが息も絶え絶えに、疲労を訴えた。切株に腰を下ろして動かない。


「エル、頑張って!あと、もうちょっとだよ!ほら、もうセント・ローレンス修道院も見えてるよ!頑張れ、頑張れ!」


 アイリスが、後方のエルのほうを向いて、手を叩きながら頑張れ頑張れ、と応援する。

 深く薄暗い森に立ち入って、しばらくたった。この森を抜ければ、セント・ローレンス修道院なのだ。


「エル、ファイトです!もうすぐ日も暮れてしまいますよ。――さぁ、立ち上がるのです!」


 ルシフィーが鼓舞する。


「――エル、この森は夜になったら魔物が出るらしい。ほら、ちゃんと歩けよ。……おい、寄りかかるなって」


 エルを引っ張って立たせたリアードに、エルはぐでんと寄りかかって、自分で歩こうとしない。


「エル坊主……嬢ちゃんたちだって、ちゃんと歩いてるってのに。――しょうがねぇな!ほら、背負っていってやるから、あとちょっとだけ頑張れよ、な!」

「…ったく!これだから、クソガキの子守りはごめんだぜ。何回目だよ、クソ!」


 ――実のところ、エルが駄々をこねて歩かなくなったのは、もう3回目だ。その度に、レオダイムとギルボルトが、交代で背負って進んでいるのだ。


 日が暮れる前に、この森を抜けないと。エルを除いた皆が焦り始めたとき――


「きゃああぁ、誰か!――誰か、助けてくださいまし!」


 森の、少しすすんだ先――奥のほうで、女性が助けを求める声が、こだました。


「――!おい、ダイム」

「あぁ、聞こえたぜ!ただ事じゃないみたいだな。――あっちの方角からだ!」


 ギルボルトとレオダイムは、声の聞こえた方角へ駆けていく。

 リア、アイリス、ルシフィーもそれを追った。……置いて行かれるのだ、と悟ったエルも、重い腰を上げて、みんなを追った。


 駆け寄った声の先には――紫色の、腰よりも長い髪をゆらゆらと揺らした女性が、大樹の枝からゆらゆらとぶら下がって、降りられなくなっていた。


 ギルボルトとレオダイムが、女性を大樹の枝から抱え下ろしてやった。


「おぉ、神よ!――聖夜星の樹の果実を採取し、降りる術なく困り果てていたところに、使者を遣わしてくださり、感謝いたしますわ!」


 女性――カロリナ司祭は十字を切って、助けがもたらされたことを、神に感謝した。


「……このような森深くに、お若い方々がたくさん…珍しいことですわ」


 カロリナ司祭は、自分を助けた面々を見回し――そして、そのうちのに釘付けになり、目をキラキラさせた。


「私たちは、大聖堂都市『イストランダ』の聖ヨハネウス史徒文書館から、セント・ローレンス修道院に、書物の検閲任務に参ったものです。――貴女は、修道院の方でしょうか?」


 ルシフィーが、カロリナ司祭に尋ねた。

「えぇ、えぇ!わたくしは、セント・ローレンス修道院の、司祭カロリナですわ。――歓んで、皆さまをご案内いたしますわね」


 カロリナ司祭は、に視線を釘付けにしながら、妖しく微笑んだ。

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