32.聖騎士の街『ナイトメア』③ 『ナイトメア』の夕飯テロ/リアードの覚悟
セント・ローレンス修道院まで丸2日――長旅に備えて、一同は市街地で食料や装備の買い出しをするついでに、夕食をとることにした。
「この店にしようぜ!ここは前に連れてきた女の子たちにも、評判よかったからさ!」
慣れたもののレオダイムに連れられて入った店内は、陽気な音楽が流れ、活気ある店員に、賑やかな客たちの集まる、大衆酒場だった。
「わぁ!なんだか、楽しい雰囲気のお店だね!僕、こんなの初めてだよ!」
店に入るなり、ワクワクと落ち着かないエルに、同じく慣れない雰囲気の店に、周りをきょろきょろと見渡すルシフィー、アイリス。リアードは荷物持ちとして狼の姿に戻り、いつも通り素知らぬ顔で、テーブルの下に伏せている。
テーブルに運ばれてきたのは、大きなソーセージの盛り合わせに、仔牛のカツレツ、蒸したジャガイモ、そしてエールビールの樽ジョッキだった。
「これはお子様には早いな!……おいおい、ギルも今日は、ダメだぜ。聖職者さんたちの前だからな!飲酒は、20歳からだ」
「っけ!たかが3歳足らないだけで、ガキ扱いしやがって。――ダイム、お前だって6年前の俺と同じ歳の頃には、散々飲み歩いてたの、知ってんだからな!」
「いけませんよ、ギルボルトさん。――では、私が代わりにいただきますね!」
ビールジョッキを、レオダイムとルシフィーに取り上げられ――ギルボルトはつまらなそうに、皿の上のジャガイモを突っつき回している。
「ん~、おいしいねぇ!僕、こんなおいしいもの、初めて食べた!オランジェ厨房長にも伝えないと!」
エルが、ソーセージに齧り付きながらも2本目に手を伸ばす。アイリスが、テーブル下のリアードの口元にもソーセージを運んでやる。
「はい、リアードもどうぞ!……こっ、こらリアード!指をペロペロしちゃ――ダ、ダメだよう…!」
◆
宿屋に戻り、各々は早めに部屋で旅支度を済ませ、明日に備えることにした。
「さあ、アイリスちゃん!明日は私と一緒の、初任務ですね!
――私、思うのですけれど……そのアミリア族の民族衣装は、とっても可愛いらしいのですけれど……修道院に潜入するのには少し、浮きますね!
――『我、
裁縫教本を手にしたルシフィーによって、アイリスは、いつものチロリアンテープや生き物の角をあしらった民族衣装から、プリマバレリーナのような、フリルとレースで装飾された衣装へと着せ替えられた。
「ル、ルシフィー様…これ、変じゃありませんか?」
「ますます、とっても可愛らしいですよ!ん~っ……でも、やっぱり修道院には…浮きますね!
――『我、
うんっ!こっちですね!……いや、やっぱり…『≪ソーイング≫!』こっちかな?」
アイリスは、まだしばらくは眠らせてもらえなさそうなことを、覚悟した。
◆
明日に備えて、ギルボルトとレオダイムは早々に明かりを消し、ベッドに入った。
「――なぁ、まだ寝てないんだろ?――ギル」
隣のベッドで背を向け丸くなって眠るギルボルトに、レオダイムが声を掛けた。
「あのイストランダの奴らとは、仲良くできそうか?」
「……仲良くする必要はねぇだろ。こっちはこっちの護るもんがあるだけだ――俺は、アレクサンダ様の命令を護る。命令だから、あいつらの護衛をするし、『大罪の黙示録』とかいう書物を見つける手助けも、する。秘密結社とやらにも、負けない」
「――お前らしいな。アレクサンダ様に忠実で、他のことには興味ないのな。
もっと自分の感情に、素直になってもいいんじゃねぇの?大事なのはお前の――」
『コン、コン、』
レオダイムはベッドから起き上がって、ギルボルトに言葉を投げかけようとした――が不意に、部屋のドアを外からノックされ、その言葉は中断された。
「……ん?誰だ、あいつらか?」
レオダイムはベッドから降り、ドアを開けてやった。
ドアの外には、リアードが……少年の姿で、そこに立っていた。
「なんだリア坊主か。どうした?明日も朝早いし、もう――」
「あんたに、頼みがあるんだ」
少し外で話したい……というリアードの眼差しは真剣で――レオダイムは何かを感じとった。
リアードにはリアードで、護りたいものがあるのだろう。
「――あぁ、いいぜ!ちょっと待ってな」
レオダイムはギルボルトを部屋に残し、リアードと共に外の闇へと消えていった。
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