31.聖騎士の街『ナイトメア』② 作戦会議


「おやじ、部屋は空いているか?」


 近場の宿屋に入るなり、ギルボルトは宿屋のおやじに訊ねた。


「今日は凱旋式典があったから、ここいら周辺の宿屋は、どこも客入りが多いだろうさ。うちも用意できて3部屋――値も張るよ」


 宿屋のおやじは、2人の聖騎士の装具を見るや、宿代をふっかけてきた。


「おい、人数分の部屋を用意しろ。そしたら金貨も弾んでやる」


「いいえ。エルとリアード、私とアイリスちゃん、そちらお2人の3部屋で構わないじゃありませんか?

宿屋のおじさま…私たちは、神に仕えし身の上――質素で慎ましやかな我々に、どうか情けを」


 ルイフィーが微笑み、宿屋のおやじに向かって、祈りを捧げた――聖女の願いとあっては、と宿屋のおやじは破格の値――3部屋銀貨3枚で部屋を貸してくれた


 各々の部屋に荷物を置き、一同は作戦会議のため、エルとリアードの部屋に集合した。


「なっ!?こいつ誰だ!黒い狼はどこに行きやがった!」


 褐色肌の少年姿になったリアードを見て、ギルボルトが狼狽えている。


「リアードは犬っころでも、ただの狼でもなくって――僕が召喚した使い獣の人狼ウルフなんだよ!ねっ、リアード」

「…っけ!犬っころが減って、クソガキが増えただけだぜ」

「っな!」


 どうもエルとギルボルトは、折が合わないようだ。そんな、今にもケンカになりそうな2人の間に入り、ルシフィーが先を進める。


「え~っと!まずは私から、今回の検閲任務の説明をしますね!――あっ、その前に…

 『我らに静寂と沈黙を、≪サイレント≫』。念のためです、傍耳を立てられてはいけませんから」


 部屋の中を薄いキラキラとしたヴェールが覆った。ルシフィーは文書館から持ってきた任務報告書を読み上げる。


「――今回私たちが向かうのは、『ナイトメア』北方の崖壁に建つセント・ローレンス修道院です。

 セント・ローレンス修道院は聖歴15年に、聖女ローレンスによって建てられた修道院です。ローレンスは自身も魔法薬学の研究者だったこともあり、若い聖職者の教育機関としての役割も担うべく、この修道院を建立したそうですよ――立派なお方ですね!今もおよそ80名の10歳から20歳までの男子、女子の修道士が、神に仕えながら学んでいます」

「セント・ローレンス修道院っていったら、『ナイトメア』の北方の地区境だ――ここからだと丸2日はかかるな。崖壁にあるだけあって、周囲は森に囲まれている…中心街を抜けた先は、乗合馬車じゃ進めないな」


 レオダイムが、道中の道のりを考えてルシフィーやアイリスを心配した。


「私はご心配なく。任務で国中どこでも駆け回っていますからね!」

「わっ、私も!森はむしろ都会よりも慣れてます!」


 ルシフィーもアイリスも、こういう時に頼もしかった。


「続けますね――そのセント・ローレンス修道院で、若い修道士たちの行方不明が多発しているそうです。今回の検閲任務の調査依頼主である、セント・ローレンス修道院の大司祭様は、修道院図書室に保管されていたはずの、が消えたことが、事の発端では……とお考えのようですね!まずは、その大司祭様から、その書物について、詳しいお話をお聞きする必要がありそうですね!」

「……その書物が、例の『大罪の黙示録』とかいう書物かもしれないとして――元々セント・ローレンス修道院が、隠し持っていたってことかよ?

 しかも、それが消えたってことは、秘密結社『ハコブネ』とかいう組織が、持ち去ったんじゃねぇのか?」


 ギルボルトが疑問を呈してくる。


「私の推論ですが……書物が『ハコブネ』に持ち去られたということは、考えにくいと思いますね。

 セント・ローレンス修道院の若い修道士たちが、現在進行形で行方不明となっていることから、考えるに……恐らくは、修道院内部の人間が書物を持ち出して、その書物を利用して、悪さをしているのでしょう」


 ルシフィーが持論を述べる。


 次いでエルが、自身が知っている『大罪の黙示録』の情報を共有した。


「――僕らが、聖カルメア教会で出会った『大罪の黙示録』は……

 まず……それは長い間、書庫に存在していて、書物自身が所有されるに相応しい人間を選んで、姿を現すんだ――そして所有者に魔力を授け、利用される。

 今回のセント・ローレンス修道院の書物も、この特徴に当てはまるよね?」

「――そしたら、俺らはセント・ローレンス修道院に暫く滞在して、修道院内部の人間を探り、書物を利用して悪さをしているやつを見つけ出す必要がある――ってことだな、エル坊主!」


 レオダイムは暫く考えたのち、今回の任務を理解したようだ。


「修道院内部に潜入する前に、こっちの戦力を確認しておきたい。

 この銀髪のクソガキと女は文書館の史徒ヒストリアだ――書物の魔力とやらが使えるんだろうな?…んで、そっちの女はピンク髪から見るに――ドラコーンの森のアミリア族だろう?こいつは戦力になんのか?」


 ギルボルトがアイリスを指して、問いかけた。


「アイリスは、ドラコーンの森の加護を受けていて、聖カルメア教会でも『大罪の黙示録』の力を、撥ね退けたんだよ!サンマルコおじいちゃんは、アイリスの事を、この闘いの切り札って言っているよ!」


 エルがギルボルトとレオダイムに、アイリスの力を説明した。


「へぇ、お嬢ちゃん強えんだな!頼りにしているぜ!」


 レオダイムがアイリスの頭を、ポンポンと撫でた。


「――じゃあ、そっちの狼小僧は?」


 ギルボルトがリアードを指して、問うた。


「リアは、僕の頼りになるしっかり者の使い獣、今は人の姿のウルフだよ!」

「そのおめぇの使い獣は、何の力で戦うんだ?」

「そ、それは……リアは、嗅覚がすばらしいよ!」

「…ふん、こいつは戦力になりそうにねぇな。――おい、お前。そのクソガキ史徒ヒストリアに仕えてんだろ?自分の仕える主くらいは護れる力がなくてどうすんだ、この役立たずが」


 ギルボルトがリアードに向かって、言い放った。

 それに黙っていなかったのは、エルだった。


「なっ!?ちょっと性悪お兄さんっ!リアードはすばらしいんだよ!僕の友だちを悪く言わないでおくれよ!」


 エルがフンフン憤って、ギルボルトに食って掛かった。


「――エル、そいつの言うとおりだ。俺には特別な力がない、今は役立たずだ。自分でもわかってい る。……だから、俺はこの闘いをとおして、強くなるって決めたんだ…

「――リア…」

「ふん!せいぜい、足手まといにはなるなよ」 

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