第3章 聖騎士の街『ナイトメア』 セント・ローレンス修道院 失踪事件 編

30.聖騎士の街『ナイトメア』① 第2騎士ギルボルト、第3騎士レオダイム


「それでは、行ってまいります!」


 エル、ルシフィー、リアード、アイリスの4人は、聖騎士の街『ナイトメア』へと旅立つ――


「気を付けて行って参れ――

 そうそう、『7つの教会』招集会議で教皇庁から説明のあったように、これからの任務では、各地区――此度は『ナイトメア』側から派遣されてくる者と、共に当たってもらうことになるでのう。協力して任務に当たるのじゃぞ」


 見送るサンマルコから、説明を受ける。聖騎士の街『ナイトメア』側の使者とは、地区境で待ち合わせることとなっている。


「エル坊――『ナイトメア』までは道中、長いだろう?――お腹が空くだろうさ。コレ、持っていきな」


 危険な任務に出るエルらを心配してか、オランジェ厨房長が弁当を4人分、用意してくれていた。

 ――保存の効くピクルスにされた野菜、レンズ豆のペーストが挟まった固いバケットサンドに――『元気に帰っておいで』とオランジェ厨房長からの手紙が添えられていた。


「……オランジェ厨房長、ありがとう!固いパンの食事をお恵みくださった神と――、愛情いっぱい込めてくれたオランジェ厨房長に感謝して…行ってくるよ!」


 イストランダの門前に『空間移動』陣を記して、4人は旅立った――


 ◆


「――エル、史徒ヒストリア身分証はきちんと持ってきていますね?検閲許可証と調査書類なんかは、私が持っていますからね!」

「うん、身分証はちゃんとリアードに渡してあるよ――ね!リア」


 黒い毛並みが立派な狼の姿のリアードが、エルの荷物をまとめた麻袋を背負っている。エルはリアードの頭を撫でてやった。


 イストランダから、かなり歩いた。途中でオランジェ厨房長の持たせてくれた昼食を食べ、それからさらに歩いて――午後3時を過ぎていた。


「『我ら往く道を照らせ≪マップ≫』

 ――さあ、地図を見ると、もう少しで『ナイトメア』地区のはずです。今回は、『ナイトメア』側の使者と合流してから、任務の作戦を立てましょう。

 『ナイトメア』は城塞都市ですから、使者との待ち合わせ場所は、地区境となる城門です――ほら、見えてきましたよ!あれが聖騎士の街『ナイトメア』です」


 ルシフィーが指差す先には、そびえ立つ崖の上に建立された城、それを取り囲む幾重にも築かれた城壁――外敵を阻むように周囲から隔たれた、聖騎士の街『ナイトメア』。


 ◆


「入城許可証を――よろしい。持ち物はこちらで検査する。

 ――ん?この魔法の杖はなんだ?貴様ら、怪しい魔導士じゃないだろうな?それと、その連れている狼は入城不可だ」 


 甲冑を身に着けた2人の門番衛兵に、入念に検問される。


「わ、私たちは、イストランダの聖ヨハネウス史徒文書館から派遣された、史徒ヒストリアです!これは仕事道具ですし、この狼は、使い獣で…!」


 ルシフィーが門番衛兵に詰め寄って、必死に訴える。


「――おい、これは俺の客だ。通して構わない」


 門番衛兵の後ろから、声が掛かる。振り返った門番衛兵らは、すぐさま姿勢を正し、敬礼する。


「――!これは、失礼いたしました――第2騎士ナイトオブツーギルボルト様!」


 2人の門番衛兵の間から姿を見せたのは――『7つの教会』招集会議で、第1騎士ナイトオブワンアレクサンダの傍に仕えていた、第2騎士ナイトオブツ―ギルボルトだった

 長めの赤い髪を後ろで結い、金の細工が施された、騎士の装具を身に着けている


 ――ぶっきらぼうに、エルらのもとに近づいてくる……大層不機嫌そうだ。


「――おい、お前らがイストランダの史徒ヒストリアってやつか?ったく、散々待たせやがって…

 現れたのは、こんなクソガキと女に犬っころかよ。俺に子守りでもしろってのか?」


 ギルボルトは、待たされたうえに、現れた客が想像していた偉大な史徒ヒストリア像と違っていたことで、かなり機嫌が悪いようだ。


「――!あなたと私たちは『7つの教会』招集会議でもお会いしていますね!

 私は第10史徒ヒストリアのルシフィーです。私、エル、リアード、アイリスの4名が、今回の検閲任務で『イストランダ』の文書館から派遣されてきました。

 ――よろしくお願いしますね、ギルボルトさん」


 ルシフィーがにっこり笑って、手を差し出し握手を求めたが、ギルボルトはそっぽを向いて、応じない。 


「むっ!今、クソガキって言ったね?僕は第11史徒ヒストリアのエルで――そして、こっちは犬っころではなくて、ウルフで僕の使い獣のリアードですよ!性悪お兄さん!」

「なっ!てめぇ、今なんつった!」

「――おいおい、ギル!まったく…ダメだろう?ちゃんと仲良くしないと――協力して任務に当たるって、アレクサンダ様と約束したよな?」


 ギルボルトを追いかけて、もう1人――


「――わかってるよ!アレクサンダ様の命令じゃなけりゃ、こんな地区境にまで来ねぇよ。

 っつーか、お前――ダイム!今までどこ行っていやがった!」


 レオダイム――ギルボルトより体格がよく、濃い茶色の短い髪に、髪と同じ色の人の良さそうな瞳をした、いかにも好青年といった風貌の騎士だ。


 レオダイムは不機嫌に吠えるギルボルトの肩に腕を回して、


「1人にして悪かったって!ちょっとそこで可愛いお嬢さんたちに、呼び止められちゃってさ」


 と平然と言ってのけ、更にギルボルトの機嫌に油を注いだ。


「――やぁ君たち、『ナイトメア』へようこそ。ギルボルトのやつが失礼したな!悪く思わないでやってくれよ、こいつはちょっと素直じゃないだけなんだ。今回の任務には、俺、第3騎士ナイトオブスリーのレオダイムも同行する。

 それにしても、こんな可愛いお嬢さん2人の護衛に当たれて、光栄だな」


 よろしく頼むよ、と言って、ルシフィーとアイリスに向かって手を差し伸べてきた。


「よろしくね!女たらしお兄さんっ」


 そんなレオダイムの手を、横から割って入ったエルが、ぎゅう~っと力いっぱい握りつぶしてやった。


「いててて…そんな敵視するなよ、坊主。仲良くやろうぜ」

「クソガキ、よくやったぜ!こいつはスケコマシだから、気を付けろよ

 …こんなところで油売っている場合じゃねぇ。場所を移動するぞ」


 さっそく任務の作戦を打ち合わせておこうぜ、と言うギルボルトの後に一同は続いた。

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