29.エルとリアードの絆/黒幕は、誰か
「――明日から、わしは久方ぶりの、検閲任務の旅に出るぞ。
科学調査班の皆よ。わしが留守の間、副班長の言うことをよく聞くのじゃぞ」
「うぅ~…ベラスケス班長、どうかご無事で…!」
科学調査班の研究室では、明日から検閲任務に旅立つ、第3
――最年少16歳のメフィストが科学調査班に配属されたのは、2年前。その間、ベラスケスが検閲任務に派遣されたことは、1度もなかった。
「はぁ~……文書館も慌ただしくなりますね。
――でも、そんな時だからこそ!科学調査班として、僕も
両腕いっぱいの書物を抱えて廊下を歩きながら、ぶつぶつ独り言を呟いていたかと思えば、急に大きな声で気合いを入れるメフィストの姿を見つけて、背後から近づく者が1人――
「相変わらずの挙動不審だね、メフィスト。――おっと、書物が落ちるよ」
「っ――!もう、いつもいつも!急に後ろから声を掛けてくるのはやめてくださいと、言っているじゃないですか!びっくりするでしょう!?」
半分持つよ、という第9
「――今回の検閲任務に、あなたは派遣されないのですよね…?」
「あぁ。僕は留守番さ。……その間に、ちょっと文書館内部で探りたいこともあるしね」
「……探りたいこと?――っあぁ!ルーベルト様、大変です!あそこ、あそこを見てください!」
ルーベルトの言葉に引っ掛かりを感じ、振り返ったメフィストだが……ルーベルトの背後――階段の踊り場に、パタリと倒れている人影を見つけて、ルーベルトに訴えた。
ルーベルトとメフィストが、倒れている人影に走り寄る――
「――!?リアード!リアードじゃないですか!あなた、どうしたんですか?あぁ、大変です!エルは?エルはどこに…!」
倒れているのがリアードであることを確認し、メフィストが取り乱す。
もしや、秘密結社『ハコブネ』の奇襲にあったのでは?――あるいは、文書館内に潜む敵の内通者にやられたのでは?――だとしたら、エルはどこに?
「うぅ…。エ、エルが…」
息も絶え絶えのリアードが苦しみながらも、2人に何か伝えようと、小さく言葉を発する。
「あぁ、リアード!早く…早く医務室に運ばないと!」
「メフィスト、ちょっと落ち着いて!静かに。……リアード、話せるかい?エルがどうしたんだい?」
ルーベルトがリアードの囁く口元に耳を寄せて、言葉を拾う。
「――エルが……エルが、変な魔力の使い方をしている…。
魔力を使い過ぎて…、俺にまで魔力が供給されなくなっているんだ…。やめさせてくれないか…」
それだけ言葉を発すると、リアードは目を閉じて、パタリと動かなくなった――エルから供給される魔力が尽きたのだ。
リアードはエルが召喚した使い獣だ――常にエルの近くにいて、エルから供給される魔力によって生かされている。
その魔力が途絶えているという――エルの魔力が安定しない状況にあるということだ。
リアードを抱えて、ルーベルトとメフィストはエルを探す――いた。
――『悪魔の宿りし書物』が集められた部屋で、書物の山に埋もれ、禍々しい悪気を放ちながら、ぶつぶつと何やら唱えている。
「――ぶつぶつ…フフフ、悪魔『バフォメット』か。黒山羊の頭に黒い翼――強そう…。
それに、悪魔『ベルフェゴール』、強そう。フフフ…、やっぱり『マーモン』を呼び出そう。
『我、史徒エル――』」
「――こら、エル。何をやっているんだい?君の使い獣が、苦しんでいるよ」
ルーベルトがエルの肩をポンと叩き、ほら、と腕の中でぐったりしているリアードを、エルへ見せた。
「!リ、リアード!?一体どうしちゃったの?一体、誰にやられたの!」
「……お前にだ。エル…」
ぐったりとしながら、リアードがエルへ訴えた。
◆
医務室へリアードを運び込み、ベッドに横たわるリアードの手を握り、エルは魔力を送り込む。
「……リアード、大丈夫?僕…僕ごめんね。
明日からの任務に向けて、今よりももっと強くならなくちゃって思って…焦っていたんだ。
――でも、君のことも護れないようじゃ、僕ってダメだよね」
しゅんとするエルを、ルーベルトとメフィストもただ黙って見守っていた。
「――エル。急に強くならなくて、いい。何のために俺が一緒にいると思っているんだ。エルはエルだ。エルがいつもの、おっちょこちょいのエルのままでいられるように、しっかり者の使い獣の俺が、付いているんだろう?」
目を覚ましたリアードが、エルの手を強く握り返した。
「一緒に強くなればいい」
「リアード――。
…うん!君って本当にすばらしいね。やっぱり僕は、君と一緒で、本当によかったよ」
にこっと笑って、一緒に強くなろうね!と元気を取り戻したエルに、やれやれ世話が焼けると言いながらも、リアードも笑い返した。
もう大丈夫だろうと2人を残して、ルーベルトとメフィストも、こっそりと医務室を後にした。
「――メフィスト。君に、頼みがあるんだ」
「……?頼み、ですって?」
「――あぁ。さっきは途中になってしまったけれど、僕がずっと探っていることに関してだ。…君にも協力してほしい」
ルーベルトは、メフィストの耳元に、そっと続きを囁いた。
◆
「さぁさぁ!アイリスちゃんも、明日からまた旅に出ますよ。忙しくなりますね!」
旅の荷造りをしましょう、と言うルシフィーに連れられて、アイリスは女子宿舎へと戻った。
「――ねぇ、アイリスちゃん。その首飾り、持っていくのですよね?」
ふいに、ルシフィーがアイリスの首元に視線を向けて、訊ねた。
「…?はい、もちろんです」
この首飾り――『ドラコーンの秘石』は皆を護る切り札。肌身離さず、とサンマルコとも約束している。当然今回の旅にも持っていく。
「――そうですよね。それならいいのです」
ルシフィーはアイリスへにっこりと微笑み掛け、荷造りを続けた。
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