28.これからの『大罪の黙示録』捜索任務について


 『7つの教会』招集会議が波乱のなかで閉会し、文書館へと戻る。

 エルら史徒ヒストリアは、文書館事務局長代理と第1史徒長サンマルコから、これからの検閲任務に関しての説明を受けるべく、礼拝堂へと招集された。


「はぁ~、肩が凝っちゃうわ。『7つの教会』代表が集まるなんて、どんな格式高い話し合いがなされるのかと思ったけれど、とんだ茶番だったわね。――ねぇ、肩揉んでくれないかしら?」


 第8史徒ヒストリアロゼリアが気だるげに肩を回し、たまたま近くにいた第9史徒ヒストリアルーベルトに声を掛けた。


「…構いませんよ。『我が名は史徒ヒストリアルーベルト、書の聖霊を召喚する、岩の聖霊ゴーレム』。――さあ、そこのレディの肩を揉んで差し上げて」


 迫り寄ってくる巨大ゴーレムに、ロゼリアは「ふざけるな!」と怒っている。


 ――そんな、これまた茶番を脇目に、エルとリアード、アイリスも並んで礼拝堂へと向かう。


「――それにしても、協力的な者から、そうでない者まで…様々な反応だったね」


 エルは『7つの教会』各地区の様子を思い出していた。

 あの中に…反十字教結社『ハコブネ』と通じている者がいるかもしれない――自分ら史徒ヒストリアはこれから、『7つの教会』とチームを組んで、検閲という名の『大罪の黙示録』捜索任務にあたる


 ――そう、協力しながら。

 エルはこれからのことを思って、人知れずため息を漏らした。


 ◆


「――皆の者よ、さっそく、明日からの検閲任務について、説明するとしようぞ。

 『大罪の黙示録』が執筆されたであろう年代は聖歴10~20年代であることが分かっておる。つまり、此度の捜索任務は、その年代に既に存在した教会、修道院などが対象となるのじゃ。

 さて、それでは史徒ヒストリア2人組の組み合わせと、派遣先を発表しようぞ」


 第1史徒ヒストリアサンマルコは、事務局長代理から渡された書類を読み上げていく。


「――まず、第6史徒ヒストリアウリエラと第7史徒ヒストリアアーサー。

 そなたらは、錬金術師の谷『マクゴリオ』へ派遣する。マクゴリオの北の端にあるフラメル修道院に、修道士や周辺住人に疫病をまき散らしておる書物の報告が届いておる。くれぐれも注意して任務に当たるのじゃ」

「やれやれ。破壊魔法で俺を吹っ飛ばさないでくれよ、ウリエラ」

「せいぜい、私にポンっとされないようにね、アーサー」


 軽口を叩きながらも、もともと信頼し合っているウリエラとアーサーの組み合わせは安心だろう。


「――次に、第3史徒ヒストリアベラスケスと第4史徒ヒストリアマグノリアじゃ。

 そなたらは、異教徒自治区『クルアント』へ向かうのじゃ。異教徒が崇める神殿モスクに、悪魔が宿る書物が祀られておるという噂じゃ」

「聖ヨハネウスの崇拝が及ばない、危険な異教の地での任務です。よろしくお願いしますね、ベラスケス」

「異教徒らの知恵や文明というのも、興味深いものじゃ。楽しんで参ろうの、マグノリア」


 経験豊富で博識なベラスケスとマグノリアの2人だからこそ成せる任務だろう。


「――第5史徒ヒストリアアルカンダと第8史徒ヒストリアロゼリア。

 そなたらは船乗りの漁港『シーグラス』じゃ。航海の安全を祈るサンタ=ダルマラ教会じゃが、なんでもそこの司祭が、天候を操る書物を所持しておって、海賊らから賄賂を受け取っておるという…教会内部の者からの告発じゃ。慎重に探るのじゃぞ」

「あの、私とキャラ被りしている女海賊の縄張りね。ひと暴れしてこようじゃないの!」

「ロゼリア殿よ。バレないように…慎重にですぞ。私がこっそり、忍び妖精で探らせましょう」


 普段任務にやる気を見せないロゼリアを焚き付けるにはいいチョイスだが…いささか心配な部分は、アルカンダの人にも動物にも愛される人柄でカバーできる組み合わせだろう。


「――さて、我輩サンマルコと、第2史徒ヒストリアルイス、それと第9史徒ヒストリアルーベルトの3名は、文書館で護りを固めることとする。

 手薄な文書館を敵が襲撃してくるやもしれぬし、皆の任務先で不測の事態が起こったとき、いつでも加勢できるようにじゃ」


 エル、リアード、アイリスは知っている――これはサンマルコの、文書館で保管している『大罪の黙示録』序章と第1章の護りを固めながら、この度の戦いに勝ちに出るための戦略だ。


「――最後に、第10史徒ヒストリアルシフィーと…第11史徒ヒストリアエルじゃ。

 そなたらは、聖騎士の街『ナイトメア』へと派遣する…」

「ちょっとお待ちください!第1史徒ヒストリアサンマルコよ」


 第4史徒ヒストリアマグノリアが、サンマルコの話を遮った。


「第11史徒ヒストリアエルは、敵『ハコブネ』に狙われているのですよ!それをまた任務の前線に出すというのは……

 エルを文書館で保護下に置き、代わりに第9史徒ヒストリアルーベルトを前線に置いたほうがよいのでは?」


 マグノリアの意見に、他の史徒ヒストリアらも騒めき立つ。


「――いや、エルは前線に出すぞ、マグノリアよ。

 敵はエルを狙っておる……だからこそ、じゃ。だからこそ、これからの闘いで…エルには自らを護れるだけの強さと経験が必要なのじゃ。

 ――それに…じゃ」


 サンマルコには、さらに考えがあった。


「――エルと『大罪の黙示録』との間には…大いなる力が働いている、と我輩は考えておる。

 エルなしでは、我らは『ハコブネ』にも『大罪の黙示録』にも辿り着けぬ。

 ……だからこそ、エルは此度の闘い、前線に出すのじゃ。――よいのう、エルよ」


 サンマルコの問いに、エルは力強く頷いてみせた。


「うん――僕は強くなりたい!

 もっとたくさんの書物を味方に付けて、『ハコブネ』にも、『大罪の黙示録』にも負けたくない!」


 エルの強い決意は、他の史徒ヒストリアらにも伝わったようだ。


「私も、全力でエルをお護りしますよ!よろしくお願いしますね、エル」


 ルシフィーがエルの手をとって、にっこりと微笑んできた。


「……本当は僕が、ルシフィー様を護りたいんだけどね」


「――では、エルとルシフィー。

 そなたらは、聖騎士の街『ナイトメア』の、北の崖壁に建つセント・ローレンス修道院に派遣する。

 この修道院――ここ数か月の間に、若い修道士らの行方不明が多発しておるそうじゃ。

 自らの意志で失踪しておるのか、あるいは、何者かが悪事を働いておるのか……原因はわからぬそうじゃが、図書室に保管されておった、とある書物が忽然と消えたことが影響しているのでは、と案ずる大司祭からの、調査依頼じゃ。

 ――老いぼれには探れぬ内容ゆえにのう。若いそなたら2人、それとリアードとアイリスで潜入して調査するのじゃ」


 サンマルコは、エルとルシフィーをしっかりと見据えて、よいな?と念を押してきた。

 2人はサンマルコに向かって強く頷いてみせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る