17.終わりと始まり


 朝の礼拝の鐘が鳴る――。

 昨晩の出来事が夢ででもあったかのように、清々しい光に包まれた朝がやってきた。


 しかし、ガレリア司祭のいない聖カルメア教会の朝は、地下での戦いや、一連の出来事が現実であったことを、一同に知らしめた。


 朝の礼拝のあと、一同は、聖カルメア教会に別れを告げ、それぞれの旅立ちを迎えていた。

 ドラコーンの森のアミリア族と魔獣らは、副族長ロドゲルを先頭に、森への帰路へつく――


「――アイリス様。どうか、ドラコーンの森のことは、ご心配なされず。父上、ドリドルン族長をお探しの間、留守は私にお任せくださいませ。それでは、しばしの別れ……お先に!」


 ドラコーンの皆を見送った後、サンマルコ、ルシフィー、エル、リアード、アイリスも、イストランダへの帰路へとつく。


「エル殿、リアード殿、アイリス殿。――聖カルメア教会は、あなた方に救っていただきました。勇敢なちびっこたち!

 聖カルメア教会は、この御恩を忘れることなく、二度とあのような惨劇を繰り返しは致しませんぞ。教会の神父、修道士一同、あなた方に感謝致します。

 ――様々な困難に見舞われることもありましょう。どうか、皆さまの行く道に、神のご加護が多くあらんことを!」


 フーゴ神父が、エルら3人を抱き寄せ、目に涙を浮かべて鼻水を垂らしている。


「エル様!僕…大きくなったら、『イストランダ』の聖職者を目指します!それまで、ここ聖カルメアで、一生懸命、神にご奉仕いたします!」


 少したくましい表情になったモリリス修道士が、意気込む。


「ΔЙψДφ~!ЁБΘΦ!」


 15人の小さくも勇敢なノーム達が、モリリス修道士の肩に頭によじ登って、小さな手を振っている。


「――皆、本当にありがとう!

 勇敢なフーゴ神父にモリリス修道士!『ブルワインのノーム村』は、正典認定がとれるよう、文書館に報告をしておきます!心強いノームたち!聖カルメア教会に、神のご加護を――!」


 エルは、空中に魔法の杖で大きな『魔除け護符』の魔法陣を描いた。


 手を振るフーゴ神父とモリリス修道士、ノームたちに別れを告げて、一同は、大聖堂都市『イストランダ』へと旅立ったのだった。


 ◆


 聖カルメア教会から少し離れた草原で、先頭を歩いていたサンマルコがぱっと振り返り、


「帰りの道は、いたって簡単じゃ!――さあ、我輩が描く『空間移動』陣の中に」


 サンマルコは魔法の杖先で、空間移動術のための魔法陣を空中に描いた。


「任務に旅立つ前に、イストランダの門前に、この魔法陣と同じものを描いてあるんだ。帰りの道は、陣と陣で繋がっているってわけさ。正典でも禁書でも、書物を持ち帰るのに、道中何かあっては大変だからね」


 エルがアイリスに説明しながら、魔法陣のなかに入るように促した。


「サンマルコおじいちゃんが描く魔法陣は、僕のより倍は大きいから、とっても安全さ!

 ……僕のは時々、途中でつっかえるんだけれど……――さあ、通って」


 アイリスは恐る恐る、サンマルコが描いた『空間移動』陣のなかへと進んだ。


 ――すると、先ほどまでの聖カルメア教会と、流れるブルワイン川を臨んでいた自然豊かな景色が、一変した


 ――荘厳かつ華麗な、聖人たちの彫刻が左右対称に立ち並んだ石門の前には、門番の衛兵が一糸乱れず、これも左右対称に2人並んでいる。

 石門を抜けた向こう側に見えるのは、青空の下に広がる大広場と、美しく大きなクーポラドームの『イストランダ』大聖堂だった。


「――さあ、ようこそ!大聖堂都市『イストランダ』へ!」

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