ゼノン、前を向く。



ゼノンの眼差しが鋭く、魔物を見据える。その時、彼の心に再び過去の記憶が流れ込む。かつて、彼が全てを失ったその瞬間。それでも、今の自分には守るべきものがある。過去の自分を背負い、前に進む決意を固めた。


「過去の自分に決着をつける時が来たか。」ゼノンは心の中で呟く。魔物の黒い姿が揺らぎ、まるで彼の過去の影が目の前に立ち現れたかのようだった。


「ゼノン、今のお前にどれだけの力があると思っている?」魔物の声は不気味に響く。ゼノンの胸には冷や汗が流れるが、それでも足を止めることなく、魔物へと歩み寄る。


リナとアレンは、ゼノンの背中を見つめていた。その背中には、今までに見せたことのない強い決意があった。ゼノンは、過去の過ちを清算するため、目の前の魔物に立ち向かおうとしていた。


「ゼノン…」リナは小さく呟いた。その声に、ゼノンはほんの一瞬、心を揺さぶられる。しかし、すぐに気を取り直して魔物に集中する。彼はこれ以上、誰かを傷つけさせたくなかった。


ゼノンは杖を力強く振り上げ、その先に集中させた魔力が一気に放たれる。空気が震え、魔物がその力に反応する。だが、魔物はそれをすんなりと受け止め、全く動じることなく不気味に笑った。


「ゼノン、お前の力など、もう通用しない。私はお前の「過去」そのものだ。」


その言葉がゼノンの胸を打った。自分が過去に犯した過ちが、今、目の前に具現化し、立ちふさがっている。しかし、ゼノンは怯むことなく立ち向かう覚悟を決めた。


「過去の自分を恐れてはいけない。あれはもう、今の私ではない。」ゼノンは冷静に、そして力強く心の中で言い聞かせる。


彼は再び杖を振り上げ、魔物に向かって強力な魔法を放つ。それは全ての力を込めた攻撃だった。しかし、魔物はその攻撃を軽々とかわし、ゼノンの前に立ちふさがる。


「無駄だ、お前がどれだけ力を振るおうとも、私はお前の「過去」そのものだ。」魔物の声は冷たく響き、ゼノンの心を冷やした。


ゼノンは一瞬、動きを止める。だが、その瞬間、アレンが叫んだ。「ゼノン先生、私たちは先生を信じている!」


その声がゼノンの心に響く。過去の自分に囚われていたのは、もう終わりだ。今、彼は新しい自分を築き上げるために戦っている。


「ありがとう、アレン。」ゼノンは静かに呟き、もう一度立ち上がる。


そして、彼は再び魔物に立ち向かう。今度はただの力ではなく、心の強さを込めた一撃を放つ。その魔法が魔物に直撃し、爆発が起こる。灰塵となって魔物は消え去った。


その瞬間、ゼノンは深く息を吐き、ふっと力を抜いた。魔物が消え去った後、彼はまだ震える手を見つめながら、心の中で確信を持った。


「過去の自分に打ち勝った。今の私は、もうその囚われにはならない。」


ゼノンは振り返り、アレンとリナを見た。彼の心にはもう、恐れも後悔もなかった。新しい一歩を踏み出したのだ。


「これで、ようやく本当の意味で前を向ける。」ゼノンは穏やかな笑みを浮かべながら、心の中で誓った。


そして、アレンとリナとともに、学園の未来を守るため、次なる一歩を踏み出すのだった。

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転生賢者は楽がしたい〜生きることに疲れた賢者のスローライフ〜 @ikkyu33

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