ゼノンの禁忌



その夜、学園が静寂に包まれている中、ゼノンはひとり校舎を離れて散歩をしていた。生徒たちが訓練を通じて少しずつ成長していく姿を見届け、彼の心にも一つの充実感が宿っていた。しかし、その穏やかな時間は、突然の異変で破られることとなる。


ゼノンが立ち止まった瞬間、遠くの空に奇妙な光が瞬いた。見慣れた星々とは明らかに異なる異質な光。それはゆっくりと学園の方へ向かってきていた。ゼノンの目は鋭くなり、その光に視線を集中させる。


「…この気配、ただ事ではないな。」


ゼノンが緊張感を滲ませるのは珍しいことだったが、その時の彼は完全に戦闘態勢に入っていた。その光が徐々に学園の敷地内に近づいてくると共に、ゼノンの長い人生でかつて感じたことのない圧倒的な魔力が周囲を覆い始めた。


そして、光が地面に到達すると、その場に異様な存在が現れる。まるで彼の存在自体が「世界の理」を歪めるかのような恐ろしい魔物だった。巨大な黒い影が、音もなくその場に立っており、周囲の空気が異様な重圧で満たされていく。


ゼノンは眉をひそめ、冷静さを保とうとするが、久々に胸がざわついた。「これは…もしかして、伝説の封印が解かれたのか?」


その瞬間、背後から軽やかな足音が聞こえた。振り返ると、リナとアレンが不安そうな表情で駆け寄ってきていた。二人は訓練の疲れからまだ完全に回復していなかったが、何か異変を感じ取ってゼノンの元へ駆けつけたのだ。


「先生!何か異常が起きていますか?」リナが怯えた声で尋ねた。


「お前たちは寮に戻れ、ここは危険だ。」ゼノンは冷静に命じるが、二人の目は動じなかった。


「先生と一緒に…戦わせてください!」アレンが真剣な目で懇願する。


ゼノンは一瞬ためらったが、アレンとリナの覚悟の表情を見て、深く頷いた。「分かった。だが決して無理をするな。お前たちの力を過信するなよ。」


そしてゼノンは、二人を守りながらその魔物に向かって歩み寄る。そして、冷たく鋭い声で問いかけた。


「貴様、一体何者だ。」


しかし、魔物は不気味な沈黙を保ち、ゆっくりと顔を持ち上げた。その瞳に映っていたのは、ゼノンがかつて失ったはずの「記憶」だった。目に映る風景や姿は、ゼノンにとって過去の自分と対峙しているような感覚を覚えさせた。


「ゼノン…お前は、何故ここにいる?」魔物の声は低く、ぞっとするような響きだった。ゼノンは、その声に見覚えのある感情を感じ取る。


「まさか…お前は…」


そう口を開いた瞬間、ゼノンの脳裏には、自分が過去に犯した罪や失敗の記憶が洪水のように押し寄せてきた。それは彼が転生する前、かつて彼自身が犯した「禁忌」によって生み出された存在、まさに自らの影が具現化したかのような存在だったのだ。


「これは、自分が招いた報いなのか…」ゼノンは心の中で呟き、過去の過ちを悔いながらも、今の自分がその過去に立ち向かうべき時が来たと悟る。


「リナ、アレン…私の後ろにいろ。これは、私自身の罪だ。」


そう言うと、ゼノンは再び冷静な瞳でその魔物に向き合った。彼の心には恐怖と懺悔が入り混じっていたが、今ここで守るべきものがあるという思いが、彼を強くさせていた。そしてゼノンは、覚悟を決めて過去の自分の影に挑むため、杖を強く握りしめた。


「さあ、私がこの手でお前を断つ。そして、未来へと歩んでいく。」

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