選択②



ゼノンはその日の訓練が終わると、生徒たちを解散させる前に一言添えた。


「今日の選択がどうだったかは、後で自分自身で振り返ってみろ。それが次に繋がるはずだ。」


その後、生徒たちが各自に訓練を終え、学園内で少しずつ日常に戻りつつある中、ゼノンはアレンとリナを呼び寄せた。二人は、少し疲れた顔をしていたが、何かを考えながら歩いてきた。


「ゼノン先生…私、選んだ道に後悔はありません。むしろ、途中で自分がどれだけ成長してきたのかが分かりました。」リナが言った。


アレンも続けて口を開く。「僕もです。最初は迷っていたけど、選んだ後に感じた責任が、自分をもっと強くしてくれる気がします。」


ゼノンは二人を見守りながら、静かにその言葉に耳を傾けた。彼は生徒たちの成長を肌で感じ、やりがいを感じていたが、それと同時に心の中で何かが動いていることを感じ取っていた。


「そうか。お前たちが少しずつでも成長しているのを感じると、私も教える楽しさが増していく。」ゼノンは静かな笑みを浮かべながら答えた。「だが、成長は終わりではない。これからも多くの選択をしていくだろう。どんな選択をしても、必ず前に進む力を持っていることを忘れるな。」


リナとアレンはゼノンの言葉に深く頷き、静かにその場を離れた。


ゼノンはしばらくその場に立ち尽くし、ゆっくりと夜空を見上げた。学園の広場に微かな風が吹き抜ける中、ゼノンの心は次第に澄み渡っていった。彼は無意識のうちに、長年の寂しさや自己犠牲に縛られていた心を、少しずつ解放しつつあった。


「私は、何のために生きているのだろうか。」ゼノンはふとその問いを自分に投げかけた。数百年の時を生き、かつてはただ力を求め続けてきた自分。だが今、彼は他者と触れ合い、共に生きる意味を模索している自分に気づいていた。


そのとき、ゼノンはひとつの答えを見出したような気がした。


「誰かを守るために、私は生きるのだろう。」


それは、過去の自分にとっては想像もできなかった答えだった。かつては力を求め、自己を優先していたゼノン。しかし今、彼は他者を守るために生きることが、自分の存在の意味であると感じていた。


ゼノンは深く息を吸い込むと、静かに瞑想の姿勢をとった。学園の敷地内には、微かに風が吹き抜け、木々が静かに揺れている。その風景の中で、ゼノンはこれから歩んでいく道を感じ取った。


「私は、もう一度力を使う理由を見つけた。」ゼノンはゆっくりと心の中で呟いた。


そして、瞑想の中で一つの決意が生まれる。彼は、今後どんな試練が待ち受けていようと、迷わずに進んでいくことを誓った。自分の力が、誰かのために使われることこそが、彼にとっての生きる意味であり、人生を全うするための道筋であると確信したからだ。


ゼノンが瞑想を続けていると、少し時間が経過した。やがて、リナとアレンが帰り支度をするために戻ってきた。彼らは、ゼノンが心を静めている姿を見て、少し声をかけるのをためらっていたが、やがて近づいてきた。


「ゼノン先生、お疲れさまでした。」リナが静かに言うと、アレンも小さく頷く。


ゼノンはその声に反応して目を開け、彼らを見つめた。「お前たちも、今日の訓練を通じて何かを得たか?」


リナとアレンは、少し照れくさそうに顔を合わせながら答えた。「はい、ゼノン先生のおかげで、自分が今何をしなければならないのか、はっきりしました。」


ゼノンはにっこりと笑い、彼らの言葉に満足げに頷く。「それでこそ、良い指導をしていると言える。お前たちが自分の力を信じ、しっかりと歩んでいく姿を見ていると、私も嬉しく思う。」


ゼノンは深く息を吐き、再び学園の広場を見渡した。静かな夜風の中で、彼の心は再び新たな決意に満ちていた。

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