選択
迷宮での実地訓練を終えた翌日、ゼノンは生徒たちに次の課題を与える準備をしていた。リナとアレンの成長を実感し、彼らが迷宮を通じてどんな心理的変化を遂げたのかを見て、ゼノンの心にも変化があった。彼自身、長らく感じていなかった「指導する喜び」に少しずつ気づき始めていた。
ゼノンが教員室に入ると、既にアレンが一人で机に向かっているのが見えた。アレンは昨日の訓練を思い出していたのか、時折窓の外を見つめ、何かを考えている様子だった。ゼノンは軽く咳払いをしてから、彼の元へ歩み寄った。
「アレン、昨日の訓練を終えてどうだった?」
アレンはその質問に少し驚いたように顔を上げ、しかしすぐに真剣な表情に戻った。
「正直、自分の弱さを痛感しました。でも、それを乗り越えたことで少しだけ自信が持てるようになった気がします。」
ゼノンは黙ってアレンを見つめ、やがて静かに頷いた。
「それが大切だ。自分を信じ、弱さを受け入れ、それでも前に進むことが成長だ。だが、成長のためには、さらに試練が必要だろう。」
ゼノンがそう言い終わると、アレンの目が一層真剣になった。
「次の訓練はどういうものですか?」
ゼノンはしばらくの間、言葉を選ぶように黙って考えていた。迷宮のような過酷な訓練を繰り返すことが良い結果を生むとは限らないと感じていた。しかし、もっと大切なのは、アレンが自分で道を切り開く力を養うことだった。
「次は、『選択』だ。お前たちに与えられるものは、試練ではなく、選択肢だ。お前たちがどういった選択をするのか、それを見て、次に進むべき道を示すことになる。」
アレンはその言葉に少し考え込み、そして深く頷いた。
「選択…」
ゼノンはその場で少し立ち止まった後、続けて言った。「一度選んだ道を後悔しないよう、どんな時でも自分の決断に責任を持て。」
その言葉を聞いたアレンの顔には、明らかに新たな決意が宿っていた。ゼノンはそれを見て、微かに満足げに頷くと、授業が始まる前に部屋を出て行った。
その日の訓練では、ゼノンは生徒たちに「選択」の試練を与えるべく、特別な課題を出すことに決めた。迷宮のような難解な試練ではなく、今度は生徒たちに与えられた状況下で、どんな選択をするかというテーマだ。
ゼノンが用意したのは、学園内の広場に設けられた二つの道。それぞれに異なる課題が待ち受けているが、どちらを選んでも避けられない困難が伴う。リナ、アレン、そして他の生徒たちがその前に立ち、ゼノンの言葉を思い出しながら、慎重に一歩を踏み出す。
「どちらも試練だ。しかし、それが自分にとってどのような意味を持つかを、今は自分で選ばなくてはならない。」
ゼノンはその背後で静かに見守っていた。生徒たちの選択を見守ることで、ゼノン自身も何かを学び、成長していくことを感じていた。そして、その成長がどこへ向かうのか、彼自身もまだ完全には見通せていなかったが、少なくとも一歩一歩、前へと進んでいることは確かだった。
そのとき、突然ゼノンの耳に声が聞こえた。
「ゼノン先生…。」
振り返ると、リナが一歩前に出て、少し躊躇いながらも言葉を続けた。
「私、この選択をすることに決めました。もし失敗しても、後悔しないように全力を尽くします。」
ゼノンはリナの決意を感じ取り、軽く頷く。
「良い選択だ。全力を尽くして、何が起きても受け入れろ。」
そして、その言葉に続いて、ゼノンは他の生徒たちにもそれぞれの選択を見守りながら、静かに訓練を進めていった。
生徒たちがそれぞれの道を選び、様々な試練に挑む中で、ゼノンはその姿を見守り続けた。彼の心に湧き上がるのは、以前のような諦めや無力感ではなく、生徒たちとともに歩んでいく未来への希望だった。
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