ゼノン、師匠に会いに行く



アレンとの会話の中で、ゼノンはふと彼の「師匠」の話を思い出していた。アレンの強さの源が、その師匠による鍛錬にあるのだと彼は信じて疑わなかった。アレンにとっても、師匠の存在は特別であり、ただの「強さ」ではなく、正しい心の在り方をも教えてくれる存在であるように感じていた。


 ゼノンはそれまで、自分の強さを磨くために他人の手を借りようと思ったことなどなかった。だが、アレンの師匠ならば、彼にとっても新しい気づきを得られるかもしれないという思いが胸に芽生えていた。そして、同時にその師匠がアレンをどのように鍛えてきたのかも興味が湧き上がってきた。


「アレン、師匠に会いに行くつもりはないか?」ゼノンは軽い調子で尋ねた。


「えっ、ゼノンも会いたいの?」アレンは驚きながらも嬉しそうに目を輝かせた。「もちろんだよ!きっと師匠も喜んでくれると思う!」


 その無邪気な反応に、ゼノンは少し微笑んだ。アレンが心から信頼し、尊敬する師匠ならば、自分にとっても何か学ぶことがあるに違いないと思えたのだ。かつては「正義や信念」に意味を見出せず、ただ己の力のために生きてきたゼノンだったが、アレンとの関わりを通じて「誰かを守る」意義の深さに触れ始めていた。


「では、師匠のもとに向かうとしよう。君がどれほどの人に育てられてきたのか、この目で確かめてみたい。」ゼノンはそう言い、旅の支度を始めた。


 二人は村の外れにある広大な森を抜け、アレンの師匠が住むという隠れ家を目指して歩き始めた。道中、アレンは師匠の教えを何度も思い出し、ゼノンに楽しげに語った。


「師匠はね、ただ強くなるだけじゃなくて、心も磨くことを教えてくれるんだ。『真の強さは、誰かを守るために使うべきものだ』っていつも言っていたよ。」


 その言葉にゼノンは深く頷いた。今まで、自分の力を「守るため」に使うことを考えたことがなかった彼にとって、それは新しい価値観だった。ただ己のために力を振るうのではなく、大切な存在のために力を尽くす――その考え方が、ゼノンの中で少しずつ根付いていくのを感じていた。


 そして、アレンの師匠が住むと言われる山岳地帯に足を踏み入れた時、ゼノンは次第に緊張感を覚え始めた。長年の孤独な戦いと自己研鑽に費やした彼にとって、自分が誰かに教えを乞うというのはほとんどなかった経験だったからだ。しかし、アレンと共に歩むことで、新たな可能性が拓ける気がしていた。


「ゼノン、師匠はとても厳しいけど、きっとゼノンのことを歓迎してくれるよ!」アレンは自信満々に言った。


 ゼノンはそれに小さく頷き、決意を新たにした。アレンが尊敬する師匠と出会うことで、何かが変わるかもしれないという期待があった。そしてそれが、ただ自分のためだけでなく、アレンやこれから出会う人々を守るための力に繋がると信じていた。


 こうして、ゼノンとアレンの新たな冒険が始まった。師匠との出会いが、彼らにどのような影響をもたらすのか。それはまだ誰にもわからなかったが、ゼノンはかつて抱いたことのない希望を胸に抱き、歩みを進めていった。

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