3 白鳥 美礼 ⑤

 被害者になるのは慣れていた。しかし、加害者になるのは初めてだった。最初は心が痛んだ。どんな嫌な客と性行為をするよりも、人を一人殺す方がつらい仕事だと、初めて知った。

 ただ、そんな罪悪感も次第に麻痺していく。客が薬を飲むのを見守っても、早く死なないかなとすら思うようになっていた。そんな自分に気が付き、怖くなった。そして、その恐怖すら徐々に薄れていった。


 いつものように仕事が終わり、車で帰路につく。仕事着のままだ。ダッシュボードに乗せたスマホが、震える。通知が見えた。


『美鈴:早く帰ってきて! 美礼にお客さんが来てる!』


 お客さん? 心当たりがない。

 その時、交差点で目の前に黒いバンが横切り、停車するのが見える。思わず急停車した。車から降りる。


 その時、後頭部に衝撃が走る。次の瞬間にはアスファルトに伏せっており、倒れた衝撃で気を失っていたことに気が付く。しかし、その意識がまた沈んでいく。腕が痛む。倒れた時にひねったかもしれない。ぼんやりとそんなどうでもいいことを考えてしまう。


 違う。それよりも美鈴が――――。

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