3 白鳥 美礼 ⑥
目を覚ます。知らない天井。
四方を囲むアスファルトのワンルーム。そのベッドの上に横たわっていた。部屋にあるのは簡易的な洗面台に、トイレ。それから部屋の奥を彩る観葉植物。
美鈴は? 美鈴はどこ?
しかし、周囲を見渡しても妹はいない。
目の前のモニターが点灯し、戦隊もののお面を被った男の姿が映し出される。
『君たちの質問には一切答えない。単刀直入に言おう。君たちには殺し合いをしてもらう』
男は淡々と殺し合いのルールを説明していく。それはちょうどあの日、男に暗殺の依頼をされた時の気分と似ていた。心臓が早鐘を打ち、額に脂汗が滲んだ。仮面の内は窺い知れないが、そのオーラにはあの男と同じものを感じた。
本気だ。本気で殺し合いを望んでいる。
わたしたちの首には装置がはめ込まれていた。制限時間が来たり、無理に外そうとすれば毒針が飛び出すらしい。
仮面の男の指示に従い宝箱を開ける。中には見慣れた青い錠剤が十二錠。
『武器:毒薬』
やはり、このゲームの主催者は暗殺のことを知っている。わたしたちは色んな人を殺しすぎたのかもしれない。ついに足が付き、こうして見せしめとも言えるゲームに送り込まれたのだ。
じゃあ、美鈴はどうなる?
その時、扉がノックされる。
「終わりました」
扉には郵便受けのような細長い覗き穴が空いており、そこから二つの目がこちらを見ていた。その目元は年輪のように皺が幾重にも刻まれている。老人だ。
老人の足音が遠ざかるのを確認してから、覗き穴で彼の背中を確認する。腰の曲がった老体で、果たして人を殺すことができるのだろうか? そんなことができるようには見えなかった。
老人の位置情報が部屋に戻ったのを確認して、わたしは部屋の外へ下見に出る。自室を施錠したカードキーには『C』と印字されていた。
「Ω」状の廊下の中央には三階分吹き抜けの広間が広がっていた。天井にはシャンデリアが吊るされており、よく見れば天井は鏡張りになっていた。見上げている自分の顔と目が合う。
その後は廊下の南端を確認するが、そこは行き止まりになっていた。目元の高さで壁が凹んでニッチになっており、そこには赤と緑の薔薇が一輪ずつ挿された花瓶が置いてあった。そういえば、廊下にも同じような花瓶が飾られていたが、いずれも赤と緑の比率がバラバラだった。一対一になっているのはこの花瓶だけかもしれない。花瓶の足元には、赤の花びらが一枚、緑の花びらが二枚、落ちていた。
「あれ?」
花瓶の横にはカードキーが置かれていた。男が一人一枚ずつ、全員に配ったと言っていた部屋のキーだ。自分の分は今も持っているし、ちゃんと施錠して部屋を出た。
誰かがここに置いて行ったのだろうか? でも、何のために?
何かの罠かもしれない。それには触れずに、続いて廊下の北端を確認する。玄関になっていたが、鍵は閉ざされていた。
わたしはここから出る。そして、美鈴を助けに行くんだ。
毒薬は不利かもしれない。だけど、妹のために、ここで頑張らないと。
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