3 白鳥 美礼 ④
仕事をこなすうちに、店からも信用されるようになった。ある日、わたしの恩人である武藤に呼び出された。
「お前に頼みたい仕事がある」
武藤はそう言うと、青色の錠剤が入ったPTPシートをテーブルの上に出した。それは、よく見慣れたものだった。
「バイアグラですか?」
「そう見えるだろう。実際、バイアグラの成分も入っている」
「他にも、何か?」
「毒だ」
ドクン。心臓がひっくり返りそうになる。
「うちは政治家やヤクザ、経営者も利用する。分かるな? 暗殺の需要がある」
「それを、飲ませろと?」
「月に一人でいい。こちらで指定した客にボーイがバイアグラを渡し、嬢と行為に及ばせる。そうすると、不幸にも腹上死する。悲しい事故だ。できるな?」
わたしは、首を縦に振ることしかできなかった。こんな大事な話をしたんだ、ここで断れば、口封じで殺されるくらいあり得る。そうでなくても、またあの地獄に戻されるかもしれない。
そうなった時、美鈴はどうなる?
「……わたしに、やらせてください」
それからわたしは、月に一度、人殺しに加担するようになった。ボーイが客に薬を渡し、嬢が性行為をする。
服用から致死まで三十分だった。個人差があっても前後五分ほどだ。毒自体は即効性だが、表面がコーディングされており、胃液で溶けるまでの時間が意図的に設けられていた。死ぬ時間が分かるのは、暗殺にはとても都合が良かった。客が死ぬのは行為中のこともあれば、行為直後のこともあった。
薬は死に際に吐血することがあった。目の前で吐血して死んだ場合は拭き取り、毒の痕跡をなくす必要があった。
だけど、ボーイが血を見ると失神してしまう質だったので、嬢の方が率先して血の後始末をしていた。誰にも話せない笑い話だった。
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