3 白鳥 美礼 ③

 男の言う「物好きなやつ」に体を売る毎日。口中虫歯まみれの中年に二時間キスをされ続けるのはまだましな方で、一ヶ月体を洗っていない男と行為を強要されたことがあった。抱きしめられただけで嘔吐し、それが男を余計に喜ばせた。蛆虫をローション代わりに使うやつもいた。ただ性器を差し出すだけで終わる客に、感謝するようになっていた。


 そんな地獄は、唐突に終わりを迎える。


 新しい父親が殺されたのだ。


 父は堅気でない人間と繋がりがあり、店を任されていた。しかし、店の金に手を付けていたのだ。それがバレて、父は人知れず山に埋められた。彼らは身内の死体をそうやって処理するらしい。父を殺した武藤という男の説明だった。武藤はわたしをスカウトした。


「お前ら、うちに来るか? お前の体つきなら、うちの店でも充分やれるはずだ」


 売春が軌道に乗ってからは、食事も十分にとれ、体も貧相ではなくなっていた。


「美鈴に手を出さないと、約束してください」

「……いいだろう。そういう男気はこっちの世界向きだ」


 それからわたしはデリヘルで働くようになった。今までに比べれば、まるで天国みたいだった。労働環境はいいし、客層も悪くなかった。変な客に体を売らずとも、妹を充分養うだけのお金を稼げるようになっていた。


 母は知らないうちに梅毒で死んでいた。なんとも思わなかった。

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