2 北大路 義雄 ③

 あれから、山で猟をするたびに、やってくる少女にその日の収穫を振舞うようになっていた。収穫のない日は川釣りをして焼き魚を振舞った。少女は黙ってそれを食べた。


 少女について、いくつか分かったことがあった。


 ボロボロの服は何も山が原因ではなかった。彼女はボロボロの服しか持っていないのだ。さらに言えば、体中の傷も、山で負ったものではなかった。一度、川で彼女の体を洗ってあげたことがあった。少し観察すれば、それはすべて折檻の傷であることは自明だった。

 僕はただ、家を嫌って山にやって来る彼女に獲物を振舞うことしかできなかった。


 その日はイノシシが一匹、罠にかかった。背負って川辺に向かう最中、獣道に自分以外の靴跡を見かける。


「……またか」


 近頃、自分以外に山に出入りする連中がいるようだった。靴の種類から、三人の人間が頻繁に来ていることが分かっていた。


 川辺に戻ると、砂利の上に大きな影が横たわっていた。最初、自分以外の狩猟者がここを使って獲物を解体しているのかと思ったが、すぐにそれは間違いだと分かった。


 それは少女だった。


 僕はすぐに駆け寄る。まだ息があった。突っ伏している体を抱き寄せると、頭から血が出ている。

 おぼろげな視線は、虚空をさまよっていた。病室で見届けた、ばあさんの最期を思い出す。

 間もなく死ぬと、直感的に理解する。


「おい、どうした。一体、何が……?」

「やまのなかでおとながさんにん……おとうさんを、じめんにばいばいしてて……」

「……それを見てる君に気が付いたの?」

 少女は小さくうなずく。体が徐々に冷たくなる。

「……ねえ、またおにく、たべたい……わたしがねんねしてるあいだに、つくって……」


 少女は目を閉じる。そのまぶたが二度と開かないことは分かっていた。


「……待ってなさい。お肉を用意してくる」


 次の獲物は、既に決まっていた。

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