1 獅子倉 大我 ⑥


 おそらく、木阿弥組の仕業だ。俺のことが気に食わないから、腹いせにこんなところに送り込んだに違いない。


 この殺し合いとやらはクソったれだが、俺より喧嘩慣れしているやつがいるとはそうそう思えない。早いところ一人ぶちのめして、二時間後に大手を振って出ていけばいい。そうして、木阿弥組の連中をどつき回してやる。

 そうと決まれば、まず武器とやらだ。片隅に置かれた宝箱のオモチャ。お面野郎はそこに武器があると言っていた。

 開くと、中には手のひら大の金属製のY字が入っており、その頭部の両端を結ぶように、ゴム製のバンドが繋がれている。他にはパチンコに使うような金属玉が数十個と、それからメモが一切れ。

 メモには端的にこう書かれていた。


『武器:スリングショット』


 その時、遠くから足音がこちらに近付いてくるのに気が付いた。

 コンコン。

 足音が部屋の前で止まり扉がノックされる。とっさに武器を後ろ手に隠す。


「下見、終わりました」


 男の声だった。ドアには目の高さに郵便受けのような横長の覗き穴があるが、そこからは人影は見えない。しかし、声の聞こえ方から想像するに、ドアのすぐ前に立っているようだった。

 俺は立ち上がって扉の前に歩み寄る。覗き穴から恐るおそる外を見るが、どう頑張っても外に立っている人間の姿は見えなかった。意図的に姿を隠しているらしい。気持ち悪い奴だ。

 男は平坦な声色で告げる。


「次はあなたの番です」

「あ、ああ」

「お互い、大変なことに巻き込まれましたね。部屋も血まみれですし、怖い思いをしたでしょう」


「血まみれ?」

 そんなことはなかった。むしろ、病室を思わせるような印象だった。

「あんたの部屋はそうだったのか?」

「……ええ、多分」


 多分? まあただ、物騒な建物だ。おそらく、過去に何度も殺し合いが起こっているのだろう。


「どうでしょう、私と協力しませんか? 一緒に生きてここから出ましょう」

「嫌なこった。第一信用できるか。俺はいつだって、一人で生きてきた」

「……そうですか、残念です」

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