1 獅子倉 大我 ②
「言うまでもないだろう」
男は懐から加熱式タバコを取り出す。俺は内心顔をしかめた。
「てめえら、誰のシマで商売してると思ってるんだ」
「上納金なら渡しただろ」
「最初に一回キリだろう。定期的に上げろって言ってんだ」
「お上がうるさいんだよ。知ってるだろ、暴対法に暴排条例だよ」
「へえ? 見た目の割にそんな言葉まで知ってるのか」
「……喧嘩売ってんのか?」
「獅子倉、てめえの組織はここ一年で随分伸びたよな……最初は大陸系の半グレを一個、お前ひとりで潰したんだってな? オジキにも気に入られて、デリヘルも順調、風呂も始めたそうじゃねえか」
「気に入らねえやつをぶっ飛ばしてたら、こうなったんだよ。成り行きだ」
「そうは見えねえんだよ。お前にそんな力があるとは思えねえ」
「何が言いてえ」
男はニヤニヤと顔を歪ませる。
「お前、何人の男のモノ、しゃぶったんだ?」
目の前のテーブルを蹴り飛ばす。男はそれをいなすために立ち上がると、身をかがめてテーブルを脇に避ける。その隙を逃さず、男の顔を左手で鷲掴みにし、膂力で思いっきり壁面に後頭部を打ち付けてやる。
「ぐへっ」
「てめえが俺のモノをしゃぶれよ、オラ」
くずおれた男の口に革靴のつま先を突っ込む。前歯が歯茎から折れる。足元に転がる加熱式タバコを粉々に踏みつけると、懐から紙タバコを取り出す。入口で見守っていたライター持ちが、律儀に駆け寄って火を点ける。
「全然じゃねえか。タバコもどき吸ってるやつはどいつも軟弱に違いねえ」
「タイガさん、流石にこれはまずいっす……木阿弥組になんて説明しましょう」
足元には血まみれで気を失っている暴力団幹部が転がっていた。
「加熱式タバコが暴発したとでも言っとけ」
男を表に投げ捨て、嬢の教育をし、負債者の内臓をブローカーに流して、一日が終わる。
さて、これからどうするか。パチスロも裏カジノも飽きてきた。また女でも漁るか?
事務所の前に出る。寝静まった町は東の空から滲む朝日に照らされていた。
「なんだ、来てねえじゃねえか。迎えを寄越せって言っただろうが」
使えねえ部下に舌打ちをしてから手持無沙汰でタバコに火を点ける。
「獅子倉大我だな?」
聞きなれない声。振り返ろうとするが、後頭部に衝撃を受け、意識が遠のく。
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