1 獅子倉 大我 ③

 お袋は風俗嬢だった。


 親父に捨てられたのは当然だ。お袋は親父に依存しきっていた。男に媚びるしかできない、面倒な、重い女。そんなお袋を、親父は捨てた。俺もついでに捨てられた。


 親父との記憶はほとんど残っていない。ただ一つ、俺が喧嘩に負けて帰ると、親父はいつも俺の頭を撫でた。


「困った時は『助けてくれ、親父』って叫べ。いつでも助けてやる」


 だが、そんな親父は俺を置いて出て行った。置手紙には一言、「困った時はベッドの下を見ろ」と書いてあった。ベッドの下にまとまった金が無造作に置かれていた。だが、それも焼け石に水だった。


 それからお袋は、俺に暴力を振るうようになった。夜は男のペニスをしゃぶり、昼は俺を殴り倒す。俺は夜な夜な泣いていた。泣きながら、親父に助けを求めていた。だが、親父は一度も助けてくれなかった。当たり前だ、姿も現さず、連絡の一つも寄越さない親父が、俺を助けてくれるはずなんてなかった。


 それでも、子供だった俺は無力で、そんな母親に媚び、依存することしかできなかった。


 女はみんなクズだ。お袋みたいな、クズ。


 そうじゃなきゃ、辻褄が合わない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る