1 獅子倉 大我 ①
―――女はみんなクズだ。
路地裏に転がる野郎ども。倒れ伏すその頬は例外なく血まみれで、俺の右手の握り拳とお揃いだった。
うめく男たちの絨毯の奥には、尻もちをついた若い女性が怯えていた。
「た、助けて」
女の声。か細くて、弱くて、庇護欲を煽る……俺の一番嫌いな声だ。
「ふざけんな!」
雑居ビルの壁に這う排水管を殴る。パイプは手の形に歪み、拳の血がべっとり付着する。それを見て女は絶句する。
「てめえの連れがウチのシマを荒らすからだろうが」
俺は女の顔を殴る。ゴキっと音が鳴る。白い欠片が口から飛んだ。前歯だ。
女は最初に殴られた時、気の抜けた顔をする。まさか女である自分が殴られるとは思っていないのだ。意味が分からないという表情をして、次に泣きわめくのだ。助けてくれ、女の自分を殴らないでくれと。まるで壊れたオモチャのように。
壊れたオモチャは叩いて直すに限る。
歯をもう二、三本飛ばしたところで、後ろに控えた部下たちに声を掛ける。
「こいつを風呂に沈めろ」
女はもはや泣き叫ぶ気力もなく、引きずられるがままに連れていかれる。歯がない方がフェラが気持ちいいらしいから、きっと人気嬢になるだろう。華々しいデビューの花道を飾ってやったんだ、誇らしい気持ちにすらなる。
「さて、次はどいつを片付ける?」
「タイガさん、木阿弥組が待ってるっす」
「ちっ……車出せ」
路肩に止めてたバンの助手席にドカッと腰を下ろすと、紙タバコを咥える。電子タバコなんてくそくらえだ。運転席からライターを持つ手が伸びて、火を点ける。ライター持ちが口を開く。
「その……大丈夫っすか?」
「ああ? 唾つけとけば治る」
「…タイガさん、女にも容赦ないっすね」
「ハッ! 当たり前だ。女はみんな花や蝶ってか? 馬鹿げてやがる。男女平等万歳だ。男だろうが女だろうが、気に食わなければ相手を殴って黙らせられる。そうだろ?」
「タイガさん見て痛感してるっす」
女は甘やかせばつけ上がり、施せば傲慢になる。奪い続けるに限る。優しくするのは最初だけだ。俺に惚れた女は片っ端から沈めてきた。やつらは惰性で人を愛し、自分を肯定するために身を犠牲にする。
――――タイガ、あなたは幸せになりなさい。
クソ女が。
「……ふん」
考えてみれば、クソから生まれた俺がクソなのは当たり前じゃねえか。
事務所に着くと応接室に向かう。ソファには白いスーツのおっさんが座っていた。堅気の人間ではあり得ないナイフのような空気を全身にまとっている。木阿弥組の幹部か。ちょっとはやれそうだ。
俺は向かいのソファに身をうずめる。
「それで、要件は?」
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