魔動装置


リリと共にギルドを後にし、私は遺跡へと向かうことになった。彼女が示す方向には、どうやら荒れ果てた街が広がっているらしい。昔の建物が崩れ落ち、自然に飲み込まれたその景色は、一見ただの廃墟に見えるが、リリ曰く「魔法技術の発祥地」と呼ばれている場所だった。


「翔太さん、ここには数百年前の魔導技術が封印されていると聞きますが、詳細は今も解明されていないんです。ですが、古い文献には“異世界から来た人々の痕跡”があると記されています。」


「異世界から来た…?」私はその言葉に心がざわめいた。500年前に眠りについた自分、そして目覚めたこの魔法の未来世界――まるで繋がりがあるような気がしてならない。


「そうなんです。近年、古代遺跡で発見された装置や文献の中には、私たちの魔法とは根本的に異なる技術が数多く見つかっているんですよ。」


リリが説明してくれる中、私はふと気づく。この世界の人々は500年前に何か重大な出来事を経験した。そして、その結果として現代の科学技術が一度失われ、代わりに魔法が主軸になったのではないか――そんな仮説が頭をよぎる。


「もしかして、その遺跡で見つかった技術って、僕が知っているものに似ているのかもしれない。」私は小声で呟いたが、リリはすぐに興味を示して顔を上げた。


「ええ、本当ですか?翔太さん、過去の文明について何か知っているのですか?」


「いや、確かなことはわからないんだけど…。もし僕が知っている技術と似ているなら、この遺跡にはその痕跡が残されているかもしれないと思ってね。」


リリは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに真剣な顔つきに戻り、足を速めた。


しばらくして、目の前に巨大な石造りの門が見えてきた。遺跡の入り口だ。その門には見たことのない文字が刻まれていて、不思議な光を放っている。触れるだけで静電気が走るような感覚があり、まるで魔力が封じられているようだった。


「これが…古代文明の遺物か。」私は恐る恐る手を伸ばし、石の表面に触れた。


すると、頭の中に一瞬だけ奇妙な映像が流れ込んできた。過去の記憶か、それとも異なる次元の存在か――それは一種の警告のようにも思えた。


「翔太さん、大丈夫ですか?」リリが心配そうに声をかける。


「…ああ、大丈夫だよ。ただ、この遺跡、僕が予想していた以上に何かが眠っているみたいだ。」


私はリリと共に遺跡の奥へと足を踏み入れた。薄暗い通路が続き、時折、壁には古代文字が浮かび上がっていた。だが、何よりも異様なのは、空間に漂う微かな機械音のようなものだった。


「この音、聞こえる?」私はリリに訊いたが、彼女は首をかしげるだけだった。どうやら彼女には聞こえていないようだ。これは、過去の記憶を持つ私だけが感じ取れる何かかもしれない。


進むにつれて、通路の先には巨大な機械装置のようなものが現れた。それはまるで、かつての文明が築き上げた最先端のテクノロジーの残骸のように見えた。装置の周囲には魔法陣が刻まれており、未だに微弱な光を放っている。


「これって…まるで昔の…」私は息を呑んだ。500年前の世界で見たことがあるような形状だったが、魔法と融合しているこの装置は、私の知っているどの機械とも異なっていた。


「翔太さん、この装置の前にある文字、読めますか?」リリが指差す場所には、見慣れた漢字が書かれていた。


「“時空間転移装置”……!」私はその言葉を口にした瞬間、全身が震えた。まさか、自分が500年後に目覚めた理由がここに隠されているとは――。


この謎めいた遺跡の奥で、私は過去と未来の交差点に立っていることを実感した。ファンタジーの中に散りばめられた科学の遺産。その謎を解くことで、自分の眠りの真実も明らかになるかもしれない。


「翔太さん、行きましょう。この先に、もっと大きな秘密がある気がします。」リリが微笑む。彼女と共に歩む新たな一歩が、私の運命を再び動かし始めたのだった。

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