兵器たち

 ハンゾーは後悔していた。知らなかったとは言え、援軍であるドラゴンを守ることができなかったこと。そのせいで未曾有の被害を出してしまったこと。故に此度は必ず守る。それが、それがマスターニンジャとしての矜持であると───。


 ハンゾーのホログラフィック分身の術とは、その名のとおり、質量のある分身を作り出す術である。

 ホログロフィックとは三次元空間に立体的に投射された高次元システム忍術である。恐るべきはその数!通常の忍者ではここまでの数の分身は不可能。マスターニンジャのハンゾーだからこそできたのだ。


 「な、な、にゃにぃぃぃいいいい!!!?」


 その様子を見ていたオズワルドは完全に意表をつかれた。当然だ。ドラゴンを斃したと思ったら、それが囮でしかも突然ドラゴンの数が数百倍に増えた。

 まるで意味がわからない。戦争の定石など完全に無意味だ。完全に度肝を抜かれた。常識外れの現象、今オルヴェリン上空にはドラゴンだらけで青空が見えない。


 「インチキ!インチキだろあれ!どうなってんだよおい!!ずるい!!」


 遠眼鏡を叩きつける。ありえぬ出来事。しかし、それは序章にすぎない。


 「おっと!オルヴェリンよ!まだだ、お楽しみは、これからで候う!!」


 更にハンゾーは印を結ぶ。

 かつて宗十郎はそのブシドーセンスにより、弾道の軌跡残るエネルギーを辿り重火器を一斉に破壊した。その名をブシドータクティクス『無影弧式』。

 しかし忍者は違う。敵の兵器を無力化するなど……忍者にとっては日常茶飯事、朝飯前なのだ。


 「忍術!開!爆轟輪回!ジェットストリーム……フルアクセス!!」


 爆発、連なる爆発!

 ハンゾーの掛け声とともにオルヴェリンの各地が大爆発を引き起こした。爆破されたのは防衛兵器たちであった。忍術・爆轟輪回ジェットストリームとはカウンター忍術。あらゆる事象をひっくり返し、元へと向かわせる輪廻返し。


 「さぁ皆の衆!!舞台は整った!今こそ作戦最後のとき!!」


 カーチェは改めて思い知らされた。ブシドーの世界に生きる者たちの出鱈目さを。彼らは我々とは別の常識に生きている。そして今は……頼りになる素晴らしい仲間だ。


 「ああ!感謝する!行くぞ皆、全員続け!皆が切り拓いた活路を無駄にするな!」


 ドラゴンたちは一斉に急浮上する。壮観であった。まるで天空を覆い尽くす黒雲のようだった。その巨大な翼は大気を震わせ強い風を引き起こす。ただそれだけで強い威圧感を覚えさせる。

 無数のドラゴンたちが今、難攻不落と謳われたオルヴェリンの城壁を乗りこえ、ついに、オルヴェリン内部へと入り込んだのだ。


 「周辺に人と思われし生命体は確認できない。ドラゴンの脅しが効いたようだな」


 幽斎の報告にカーチェは胸をなでおろす。第一関門は突破できた。この侵入作戦の巻き添えで市民に死者が出ないか、懸念だったのだ。


 「よし、このまま中央まで進み……ん?なんだ……熱源?」


 それは奇妙な熱源だった。何もない空中で、僅かだが確かに微細な熱源が大量に発生している。鳥にしては数が多く、虫にしては熱量が大きすぎる。

 やがてその熱源は静止し、ドラゴンたちの前に立ちはだかる。何かが来る。そう身構える。


 「亜人諸君、ようこそオルヴェリンへ!過激な挨拶だがまぁ許そう!私の名はノイマン、異郷者ノイマン!この街を作り上げた天才である!そして来い!都市防衛システム……イカロス!グライプ!ヴィマーナ!」


 空中に浮かぶ巨大な映像。ノイマンの作り出した三次元映写装置である。掛け声とともに都市から何かが射出された。三つの飛翔体。鳴り響く轟音、そして炎!凄まじい速さでオルヴェリンの空を駆け巡るのだ。


 「あれは……零式か!?」

 「違うぞ宗十郎!よく見るでござる!零式は美しいフォルムと色合いが魅力!あのような平べったいものではないで候!」

 「知っているのかお前たちは!?」


 ノイマンは驚愕する。よもやこの戦闘兵器を彼らが知っていることに。


 「まぁ良い……だがここから先は知らぬはずだ!三身合体!コードコンバイン!!」


 三つの戦闘機は変形を始めた。そしてお互いの機関部にジョイント接合!空中で重厚な金属音を立てて三つの戦闘機が一つになるのだ!即ち合体!変形合体を成し遂げた戦闘機は巨大なサイズとなりて、オルヴェリンの都市に着地する!鳴り響く重々しい音!


 「これぞ戦略式合体武装防衛人型兵器イグリマーナ!フハハハ!この天才ノイマンの傑作!変形合体する巨大人型ロボット!即ち私の勝利だ!!」


 高笑いを浮かべるノイマン。宗十郎もハンゾーも驚愕していた!


 「た、確かに……!ま、負けだ!スケールで某らは負けだ!」

 「リリアン!お主らのドラゴンも変形合体して対抗するのだ!定石ではないか!」

 「で、できるわけないだろー!ドラゴンを何だと思ってるのじゃ!!」


 宗十郎とハンゾーは完全に目を輝かせている!ノイマンもその姿に誇らしげだった!


 「いや、何を言っているんだお前たち!戦ってもいないのに何を諦めているんだ!!大体、人型になった分、動きが鈍重になったのだから弱体化してるぞあれ!!」

 「!!……流石カーチェ。元神聖五星騎士なだけある!天才の私が作り上げた傑作の弱点に気がつくとは!だが……」


 イグリマーナは構える。それは格闘技の構えであった。カラテスタイルを彷彿させる中段自然体。人と同じように戦えるというのかと宗十郎たちは目を輝かせていた。


 「パワーは三つの機体が合体したことで三倍!天才的計算により、ここで落ちてもらうぞ!オルヴェリン中央には向かわせないのだ!受けろ!イグリマーナパンチ!!」


 シンプルな名前だが威力は絶大!イグリマーナの鉄拳が襲いかかる!一撃で複数のドラゴンを蹴散らす絶大なものであった!だが……。


 「忘れるな!今ここにいるのはブシドーと忍者!ハンゾー!力を貸せ!迎え撃つぞ!」

 「言われなくともそのつもりでござるぞ宗十郎!このような絡繰!段蔵殿に比べれは三下もいいところでござるぞ!!」


 迎え撃つはサムライブレードとニンジャブレード!螺旋状に交わり合う二つの力はイグリマーナの鉄拳を吹き飛ばす!

 それだけではない、宗十郎とハンゾーのブシドーがイグリマーナへと流れ込む。ブシドーに耐えきれる物質はサムライブレードなどの一部のみ。崩壊していくイグリマーナ……かに思えたがノイマンにとってそれは予想の範疇だった。


 「ぬう!?やはり侮りがたしブシドー!私の計算を軽々しく超えていく!だが……天才はそんなことも想定のうちなのだッ!」


 吹き飛ばされた鉄拳はイグリマーナ本体から分離する。分離した腕は崩壊する。しかし本体には届かない。腕をあえて落とすことで被害を最小限にしたのだ。

 しかし片腕となったイグリマーナに勝機などあるのだろうか。いいや、ここで引くノイマンではない。


 「受けよ!ノイマン式、対ドラゴン兵器!ニーベルンゲンシステム起動!!」


 残された身体が変形。まるで巨大なスピーカーのように変形したそれは、間髪入れず起動した。宗十郎たちは気がつく。その兵器の正体を。


 「全員!!耳を塞げッ!!」


 爆音。オルヴェリンに響き渡る、とてつもない不快な爆音が響き渡った。音波兵器である。

 ドラゴンたちはその不協和音に耐えきれず、落ちていく。一時的に飛翔能力を失ったのだ。最後の力を振り絞り不時着するも、三半規管に与えられたダメージはとてつもないものだった。

 だが同時にイグリマーナが崩れ落ちる。分離が遅れたのだ。宗十郎とハンゾーのブシドーは確実にその巨体を破壊していた。


 「イグリマーナ!お、おのれ!私の傑作を……!」


 ノイマンは舌打ちをして回線を遮断した。

 皆、緊張した表情でドラゴンの背から降りる。足を踏みしめる。ついにここまで来たのだ。難攻不落、絶対不滅の人間都市オルヴェリン。


 「ドラゴンたちよ見事!後は俺が、俺たちがやり遂げる!!」


 宗十郎はドラゴンたちに労いの言葉をかける。リリアンは傷ついたドラゴンたちを介抱していた。それが代表の務めだからだ。彼女たちの助力はここまでだった。


 「全員気を抜くな!急ぎ壕を作れ!敵は種子島を持っている、格好の的だぞ!」


 幽斎が叫んだのと同時だった。銃声。そして金属音。宗十郎が弾いたのだ。こちらの武器は剣や斧、槍に弓。対して相手は最新型種子島。武器の優劣は既に決まっている。


 「師匠、軍の指揮は頼みました。拙者は敵の気を引き付ける故に」

 「うむ……ふふっ……この世界の者たちに見せてやるが良いシュウ。ブシドーに種子島など、無意味であることを。所詮は子供騙し。真なるブシドーの敵ではないのだから」

 「はい!いざ、ブシドー展開!フルクロス!!」


 宗十郎のサムライブレードが輝き出す。注入されたブシドーはナノマシンと反応し別の形態へと変化する。

 それは無数の刃!千の刃が周囲に展開される。狙撃兵の位置は明白であった。弾丸の運動エネルギーをブシドーにより逆探知すれば容易に特定できる。


 「因果応報!放て、我がサムライブレードよ!」


 射出されたサムライブレードは正確無比に狙撃兵へと飛んでいく。


 「なっ……!?」


 狙撃兵の前に刃が飛んできた。狙撃してからその間、僅か数秒。通常ならばありえぬ反撃をブシドーならば可能とする。

 断末魔。哀れ狙撃兵は無惨にもブシドーフルクロスにより刻まれ絶命したのだ。


 「……む」


 しかし宗十郎は早々にフルクロスを解除した。敵の動きがすぐに変わった。狙撃兵の様子はどこにもなく静かだ。


 「ブシドーに通用しないと理解し出方を変えてくるつもりか」


 コボルトの一人が気づく。何か臭うと。異様な臭い。巧妙に風向きを意識して配置していたそれらだが、嗅覚に優れたコボルトたちは察知した。しかし彼らは人語を話せない。幽斎に伝えるためにゴブリンのリンデを介してでないと伝わらない。その遅れが致命的だった。

 それは空にいた。遥か上空。ノイマンがジェット戦闘機を発明していたのは先程、明らかであった。ならば予想するべきだったのだ。そこから派生する、同様の兵器の数々も、既に発明済みであるということに。


 ゴウンゴウン……ヒュルルル……。


 聞き慣れない音が聞こえた。質量物が空気を切り裂き落下してくる。幽斎は理解した。"あれ"は敵意の塊。意思こそないが、生命を殺し尽くす劇物。


 「全員伏せろ!!敵が来るぞ!!」


 幽斎は叫んだ。同時に爆発と衝撃。オルヴェリンの都市部は一瞬にして地獄と化した。強い衝撃と、閃光。そして熱波が広がる。


 「なんなんだこれは!お前たち……お前たちの……自分たちの都市じゃないのか!?」


 カーチェは叫ぶ。その惨状に。周囲一帯は火の海だった。燃えて燃えて燃え続けている。

 落下したのはただの爆弾ではない。ナパーム弾。燃焼性の化学物質がこびりつき燃え続けるのだ。生命体を殺し尽くすための制圧兵器。そしてそれを実行したのは遥か上空を飛翔する航空機。爆撃機である。気がつけば辺り一帯が火の海と化していた。

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