唯一無二
「全員準備は良いか!本作戦はドラゴンたちの援護が最重要だ!魔法が使えるものは微力でもいい!ドラゴンたちの支えになるんだ!」
エルヴィンが指揮をとる。エルフは魔法に長けているためドラゴンを支援するのだ。
「ふぁぁ~よく寝たでござる。おぉ皆、気合入っているでござるなぁ、宗十郎はどこでござるか?昨日うった将棋の続きをしたいので候」
欠伸をしながら入ってきたのはハンゾー。緊張感の欠片もない態度だが忍び装束は身につけている。ニンジャエチケットである!
「……ハンゾーさん。これより大事な作戦です。待機をお願いします」
「ははは、心配ご無用。某、戦は嫌いではない。ましてこのドラゴンとやら……テンション上がりまくりで夜も眠れないでござるぞ。気にしないでくだされ!」
ハンゾーはドラゴンの背に座り外を眺める。そこから動くつもりはないようだ。エルヴィンは諦めて皆の指揮とりに戻った。作戦時刻。全員に緊張が高まる。
「始めるぞ、これよりオルヴェリン第一次攻略作戦の開始だ!」
その号令とともにドラゴン達は飛翔する。エルフたちのありったけの補助魔法を受けて!
───オルヴェリン中央庁。オズワルドはいつものようにコーヒーを飲んでいた。穏やかな朝。カーチェ率いる反乱軍という物騒な存在はあるが彼は気にもとめていない。
「もう少し、賢明な女性だと思っていたのだがな」
残念なのはその点。催眠が通用しなかったのは仕方ないのだが、まさか反旗を翻すとは。今の繁栄は犠牲あってのこと。人の幸福を願うならば、多少の犠牲は目をつむるべきだ。
「つっ……今朝は日差しが強いな。カーテンをしめるか」
席を立ち窓に向かう。今日はやたら外が眩しい。目眩ましを受けているかのようだった。
「なんだ……あれ……」
ガシャンとコーヒーカップを落とす。オズワルドは驚愕した。信じられない光景。初めて見る光景。外には、空を埋め尽くさんばかりの巨竜……ドラゴンたちがオルヴェリンに向かってきているのだ。
ドラゴンが人を襲うことは滅多にない。ましてや徒党を組むことなんてのは。ドラゴンたちの咆哮が響き渡る。オルヴェリンの市民たちはたまらず家から飛び出し、次から次へと避難所へ逃げ出していった。
「オズワルド様!市民たちはパニックです!このままでは暴徒が出る可能性も!」
「落ち着け。命令が下るのを待て」
オルヴェリン中央庁から不気味な光が溢れる。我先にとパニックになっていた人々は大人しくなり、整列を組みだした。この光こそがオルヴェリンの力。為政者の威光である。
「大方、狙いはドラゴンによる威嚇からの都市内をパニックにさせ、それに便乗させて侵入か。常套手段だ」
「はい……オズワルド様……ご命令を……」
既にオズワルドの近くにいた伝令官は忠実な人形となっていた。オズワルドの技の一つである。意思を奪い意のままに他者を操る。
「ノイマンの奴の兵器を使え。あの程度ならもう我々の脅威ではない」
ノイマンが発明した都市防衛装置の一つ。通称ホーネット。
都市機構が変形しその姿を現す。そのシステムは自動機銃装置である。目標を狙い徹甲弾を発射する殺戮兵器。対空性能に特化しており、この襲来をノイマンは予見していたのだ。 照準はドラゴンたち。放たれる弾丸はドラゴンの翼を容易く貫く。飛翔能力など容易く奪うだろう。
「……む?」
オズワルドは目を見張る。
奇妙なことが起きていた。ドラゴンの周囲に風の渦ができているのだ。ただの渦ではない。小さいが小型の台風のようで、それがホーネットの弾丸を逸らしているのだ。
加えてこの閃光。明らかにおかしいと思ったが、理解できた。太陽が複数あるかのように見えたのは照明魔法。閃光魔法である。
エルフの補助魔法でドラゴンを強化しても大した効果はない。故に別ベクトルで支援することを指示したのだ。あるものは弾丸を避ける風の鎧を、あるものは狙いを惑わす閃光を。いずれも種子島に対する対抗策である。
「亜人どもがこうも連携を……おかしい」
亜人たちは決して協調することはなかった。オルヴェリンの人々に差別されている状態。共通の敵がいるにも関わらず、彼らはいがみ合い、奪い合っていた。
ドラゴンの背にはドワーフやゴブリンなど亜人たちが乗っている。あの気難しいエルフが、他種族のために魔法を展開しているというのだ。
それはこの世界ではありえないことだった。何があっても覆らない"
「未確認世界の異郷者……ブシドーの仕業……か?」
原因を考えられるとすれば宗十郎だった。彼が何かをしたとしか考えられなかった。
「まぁ、それでどうにかなると思うのならば、とんだ誤算ですがね」
オズワルドは不敵に笑う。その余裕は次の策があるからである。ノイマンに渡されていた第二兵器の起動スイッチ。
オズワルドがスイッチを押すと、また都市の一部が変形して兵器が出現する。ホーネットとは比較にならない多段変形。通称ハーブーン。
それは都市機構の大規模な変形を必要とする防衛システム。都市は発射台として変形し、地下に格納された破壊兵器。長距離弾道ミサイルである。
吉村がエルダードラゴンを射殺するのに使ったミサイルよりも遥かに巨大なそれらは一撃で確実に死に至らしめる。その数、数百基。とてつもない轟音。炎と煙を出して発射された。
ハーブーンには誘導センサーがついており、音速を超える速さで敵を捉える。圧倒的破壊力には魔法など無意味という現実を叩きつける。
エルフたちは懸命に防御魔法を最大出力で展開する。一際巨大な魔法陣が浮かび上がり、この世界でも最高峰のものだった。だが───。
「巨大質量物が来るぞ!!全員耐えろ!!」
亜人の一人が叫ぶ。着弾。現代の魔法レベルでは、ノイマンの科学の叡智である大型ミサイルを防げなかった。大爆発が巻き起こる。吉村の部隊が放ったものとは比較にならない。
これこそが、人類が生み出した科学の結晶。純粋たる暴力、異世界を蹂躙する、圧倒的武力である。
「ハハハ!!これがオルヴェリン!!これこそが人類の叡智だ!!見たことか!!」
オズワルドはその恐ろしい兵器を手に、子供のように喜ぶ。
「うわ、うわわぁぁ!!」
オルヴェリン郊外の基地で待機していた亜人たちはミサイルの着弾を遠巻きで見ていた。
亜人たちからすれば悪夢の再来だった。わけが分からない。あれが全力ではなかったというのか。吉村の軍隊が放った一撃。それはこの世界で圧倒的なものではあるが……対処しきれないものではなかった。皆が団結し、ドラゴンの力があれば必ず乗り越える確信があった。
「な、なんで……あんなの……」
この時のためにエルフたちは必死に術を命がけで施していた。ドワーフたちは武器と防具を寝る間も惜しんで製造し続けた。コボルトたちはフェンの仇をとるために訓練に明け暮れていた。ゴブリンたちは疲弊する皆のために彼らが得意とする薬を煎じて配っていた。
「勝てるわけないじゃないか!!」
しかしそれがどうだろうか。近づくことすらできなかった。全てが水の泡だった。心の折れる音がする。
勝てない。連中は悪魔だ。この世界に降り立った悪魔。悪魔に人は勝てない。次元が違う。土俵が違うのだ。言葉すら出ない。
絶望───心が暗黒に満たされる。
───だが、そんな中。その目に光を宿す者がいた。
「諦めるのはまだ早いでござるぞ皆の衆!皆が繋げた奇跡!無駄にはしないで候!!」
声が聞こえた。ハンゾーだった。ドラゴンの背に立つハンゾーが印を結んでいた。
「哀れなり哀れなりぞオルヴェリン!某を前に種子島など!愚策、滑稽にも程があるでござろうよ!忍法!ホログラフィック分身の術!」
爆煙は晴れる。そこにいたドラゴンは無傷。それどころか、ドラゴンが無数に増えていた。空を覆い尽くすほどのドラゴン。その数、数千、数万……。とんでもない数だ!
───時間遡り亜人連合軍の本拠地。先陣が無事突破することを皆が祈っていた。
「うぅ……宗十郎よ余は不安だ。またオルヴェリンの奴らに皆が殺されないか……」
その時が来るのを待っていた宗十郎の横でリリアンは周りに聞こえないように呟く。
「安心せよリリアン。この作戦は必ず成功する」
「そ、そんなの分からないのじゃ……」
「する。皆、知らぬのだ。我々には敵には絶対に回してはならぬ、厄介この上ない忍者。マスターニンジャのハンゾーがいるということを」
宗十郎は断言した。知っている。誰よりも知っている。ハンゾーという男を、その実力を。忍者の仕事は多岐に渡る。謀略、暗殺、計略……。様々な分野に精通し言うならば忍者とは、戦術補佐の達人。それはオルヴェリンにはいない、亜人連合軍唯一無二の一大戦力である。
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