王の討伐

 「既に一度殺し合った我らに問答無用!肝要なのは貴様がトクガワの手先であるということだ!いるのだなトクガワが!ならばッッ!!」


 距離をとり宗十郎はサムライブレードにブシドーを練り込む。ブレードは葉脈のように発光し、膨張。サムライブレードは巨大な剣へと変貌した。嗚呼これぞブシドーの成せる技か!


 「今ここで!貴様を始末することは!しんがりとしての俺の務めよ!!」


 その巨剣を叩き込む!凄まじき質量、音速に等しき速さで叩きこれたその一振りは、大気を一瞬にして圧縮する。その余波で建物が吹き飛ばされた!

 宗十郎は既にブシドーサーチで周囲に非戦闘員がいないことは確認している。更に数十メートルはあるであろう巨大建造物を掴み宗十郎はブシドーを流し込んだ。建造物はたちまちブシドーに耐えきれず崩壊を始めるが些細な問題である!

 宗十郎はその膂力のみで、掴んだ建造物を持ち上げハンゾーに向け叩きつける。ブシドーを流し込まれたそれは、巨大なブシドー塊として赤黒い紫電を帯びている!


 「ちっ……!ならば一度大人しくなってもらうまででござるぞ!」


 ハンゾーは一歩も引かずその宗十郎へと直進する。巨大な掘削機のように向かってくる巨大建造物を破壊!連鎖的に爆破崩壊していく建造物!


 「これぞ殺戮忍術!神妙にせよ宗十郎ッ!」


 やはりただものではないハンゾーの実力。瞬く間に破砕される建造物その中からハンゾーが飛び出る。建造物を貫き、そのまま宗十郎へと距離を詰めたのだ。


 「万死一生!来いハンゾー!我らが戰場いくさばの続きを始めようぞ!」


 覚悟を決めた宗十郎はサムライブレードにブシドーの渾身をこめる。次の一撃で全てが決まる。それはハンゾーも同様であり、お互いがそう確信したのだ!


 ■■■■■■■■■■ ■■■ ■   ■■■。


 ───強い殺気。異様な気配。ブシドーでも忍術でもない。まるで漆黒の闇のような重圧。


 「なにっ!?」


 二人は瞬時にその発生源に同時に振り向く。見えたのだ。黒き閃光が。破滅のエネルギー。ブシドーの動体視力でも何とか補足できるような代物。それは放たれた矢であった。

 宗十郎とハンゾーは反射的にその矢を躱すために、お互い距離をとる。一瞬の判断だった。数コンマでも遅れれば消滅免れぬ必滅の一撃。目の前に轟音とともに一撃迸る。その後には未だ黒き矢の残響が残り、空間が断絶していた。


 「今のは……その反応からしてお主の手引きではないようだなハンゾー」

 「うむ……発射元はこの街の中央、玉座だ。そして見よ宗十郎。我々の周りを」


 宗十郎は見渡す。半壊した街。瓦礫の山の数々。騒ぎを聞きつけやってきた人々たち。


 「この世界は某らのいた世界とはまるで違うもの。少々、暴れすぎたようだ。此度はこれにて手打ちとしよう」

 「……あの黒き矢は警告、ということか。委細承知。その手打ち受けよう」


 煙幕が巻き起こる。煙が晴れるとそこにはハンゾーの姿が消えていた。未だにこの空間に残照として残る黒き矢の力。似ている。この世界でブシドーや忍術の全力を行使した時に起こる、空間の断絶現象と。この世界が異郷の力に耐えきれず、拒否反応を示している。


 ───即ち、黒き矢の主は異郷者。まだ見ぬ異郷者の一撃と宗十郎は見た。


 「恐ろしき弓取り手よ。聞きしに勝るは与一の一撃か」


 その苛烈であり華麗な矢の威力に惚れ惚れしながら、宗十郎は遠く玉座を見据えていた。


 「貴様がこの騒ぎの中心か!大人しくしろ!」

 「ぬぅ!?」


 感銘に浸っていたそのときであった。衛兵たちに取り囲まれている。宗十郎はそのまま為す術がなく、衛兵たちに連れて行かれるのだった───。


 「衛兵に捕まる騎士など前代未聞だぞ……」


 宗十郎から事の顛末を聞いてカーチェは呆れ返っていた。あれからあまりにも帰ってくるのが遅いので心配になって見に行ってみると、街が半壊しているではないか。察しがついたカーチェはすぐに手引きをして、解放までに至ったのだ。


 「いや、此度は本当に迷惑をかけた。ブシドーとしてここにハラキリで詫びを……」

 「いや良いから!ブシドーはことあるごとに自傷行為するのが流行りなのか!?」

 「む……寛大な処置、痛み入る。しかしハンゾーがこの世界にいる。カーチェは知らなかったのか?」

 「ああ……本当にお前のいた世界ではお前のようなのがゴロゴロといるのだな……」


 カーチェは宗十郎の言葉を半ば信用していなかった。宗十郎の戦闘能力は凄まじいものがあるが、それは宗十郎が特段優れた戦士であったからということ。彼の言う「自分のようなブシドーは山ほどいる」というのはただの謙虚な物言いに過ぎないと思っていた。

 しかし、こうして半壊した街を見ると考えを改める。是非ともハンゾーとやらにはオルヴェリンの為に味方になってほしいが、消息不明であるため難しい。


 「まったく信じていなかったのかカーチェ。何ならば拙者よりも強い者がすぐそこにいるではないか。そうですよね師匠!」


 突然、話を振られた幽斎。不意打ちだったのか少し驚いたように身体を跳ねる。


 「むっ……そ、そうだな。だがシュウ。残念ながら儂はお前の期待には応えられぬ。見よ儂の今の姿を、何か違和感を感じぬか?」

 「師匠なら女性の姿となろうとも、関係などありませぬ!決して拙者に引けを……引けを……師匠?そういえばサムライブレードはどうしたのですか」


 サムライブレードとはブシドーの魂。肌身離さず持ち歩くのが基本なのだ。しかし、今の幽斎のその腰にはサムライブレードは携えられていなかった。


 「この世界に来た時からなかったのだ。サムライブレードはブシドーの魂。魂なきブシドーは万全に力を振るえぬ。女々しい言い訳に聞こえるかもしれぬが、亜人王に儂が敗北をしたのも、それが原因とも言える」


 女体化し、魂までも失った状態。今の幽斎は飛車角落ちという状態。万全であればそもそも宗十郎が勝てる相手ではないのだ。


 「師匠……差し支えなければ拙者のサムライブレードを」

 「馬鹿者ッ!」


 幽斎はサムライブレードを渡そうとする宗十郎の頬に平手打ちをした。


 「サムライブレードとはブシドーの魂!それを他者に軽々と譲渡しようとするとは何事か!恥を知れシュウ!貴様、儂の居ぬ間に誉れを忘れたか!!」

 「し、師匠……!申し訳ありませぬ!師匠のことを想い……女の身体になり生き恥を晒し、魂までも失った師匠のことを思うと拙者は平静でいられず……拙者誉れをまた……!」

 「分かれば良い、すまぬなシュウよ。お前の気持ちは伝わっている。だがその……生き恥というのは気にしていないのであまり考えないでくれ」


 幽斎は考えていた。まずは今のこの姿、生き恥と感じていないことを宗十郎に理解してもらわなくてはならないと。少しずつ……今の自分を受け入れてもらう……そう考えたのだ。


 「ご安心を師匠!その件ですが、実は此度、亜人王討伐の命を頂きました!」


 街を半壊させて捕まり、解放されるにあたって宗十郎は五代表より本件を不問にすること条件に亜人王討伐を言い渡されたのだ。

 宗十郎はこれを天命と見た。師である幽斎を辱めた亜人王。その討伐命令など、願ってもいないことなのだから。


 「亜人王討伐だと……そもそも亜人王はどこにいるのだ、ユウさんは知ってる?」


 カーチェは亜人王なる存在を詳しくは知らない。五代表は既に知っていたということに驚き隠せない様子だった。


 「……知っている。だが、行く方法がない。亜人王城は絶海の孤島。あの時、儂は泳いでいったが……その結果、結界のようなものが敷かれたのだ。最早、難攻不落の要塞」


 亜人王城の周囲には嵐のような防壁で取り囲まれている。それは亜人王の力なのかは定かではないが、船で近づけば確実に沈没するだろう。


 「はい、そこで使用するのがハーピィの羽根ということです。五代表の話ではハーピィの羽根には風を操る力があると言います。それをもとに、空飛ぶ魔導具が作れるとか」


 ハーピィ。幽斎のコンサートを妨害した怪物である。居場所は分かっている。硫黄の臭い、それは火山。かくしてハーピィの羽根を求めて宗十郎らは火山へと向かうこととなった。

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