第26話冬月の緑荘は凍えない。
俺と同じ孤児院出身の大森シンに誘われコテージに行くことになった俺とシャナ。
(大森シン「2人とも〜あと1時間半くらいで付くよー」
出発から1時間以上たった。シンの話によるとコテージへは3時間ほどで着くそうだ。1時間車を走らせたので見える景色はまったく違う。住宅地を抜け、木々が生い茂る道を進むので民家などはありそうにない。もう今は山の車道を走っている。家を出たのが17時頃だったのでもうそろそろ日が完全に沈む。
(俺「おーい。日が沈む頃には着けるんだよな?」
(大森シン「あぁ、大丈夫だと思うぞ〜。まぁ日が暮れてもコテージの受付にはなんの問題もないから安心しろ! 」
いや…そう言うことじゃないんだけどな。俺が心配なのはコイツが事故らないかだ。シンが免許を取ったのは半年ほど前。まだ初心者だと思うからだ。特に荒い運転というわけではないが、シンというだけで安心できない。
というか、あと1時間くらいかかるなら日は暮れるだろ…。
(シャナ「うにゃ…うにゃ…う…にゃぁ…」
シャナはアホみたいな寝言を言いながら夢の中だ。家を出発してから50分ほどですでにシャナは寝ていた。車に揺られるのが相当気持ちよかったんだろう。俺も車の中で油断すればすぐ値落ちすることがあるため気持ちはよくわかる。
ーーー1時間後ーーー
(俺「………もう日が暮れましたけど?」
(大森シン「いやぁ…ね?誤算だなぁ〜」
何が誤算だよ。今はもう12月だぞ。冬は暗くなるのが早い。これは小学生でも分かることだぞ。
(俺「もうそろそろ着くのか?」
(大森シン「そうそう!もう着く!」
そう言ってから15分後にコテージへついた。
(俺「おい〜。シャナ起きろ。コテージ着いたぞ」
(シャナ「う…ほ?あれ?もう着いたんですか。」
シャナが目を覚まし、おもいっきり体を伸ばすともう日が暮れ、暗くなったことに気づいた。
(シャナ「…あれ?もう夜ですか?!」
(俺「今は20時頃だ。すっかり夜だな」
よくよく考えてみればコテージに日が暮れる前に着くわけがなかったんだ。
20時はめちゃめちゃ夜だ。
(大森シン「さぁ、2人ともさっそくコテージ行くよ!とその前にネット予約はしてたけど一応オーナーさんに着いたこと言うからね」
そう言って3分ほど坂道を歩くと、小さい小屋…みたいなところがある。
トントントン。
シンがドアをノックする。
(大森シン「あ!どうも。予約してた者です。今着きました。」
(オーナー「あー。ネット予約してた大森さんですね?コテージはここから2分ほど歩いた場所にあります。ごゆっくり。」
(大森シン「はい。ありがとうございまっす。あ、えーとここの近くにあるジムなんですが、あれってどなたが経営してるんですか?」
(オーナー「あぁ。あのジムを経営してるのも私ですよ。たしかホームページに書いてましたよ。」
(大森シン「あ、そうでしたか!見てませんでしたw」
(オーナー「ちゃんとホームページは見ててくださいね。それではごゆっくり。」
(シャナ「素敵なオーナーさんですね〜」
(俺「確かにな。落ち着いてて品がある方だ。」
身長180センチはあるだろうし、髭も濃く、ダンディー、そして服の上からでもわかる筋肉。きっとここの近くのジムで鍛えてるんだろうなぁ。憧れちまうぜ。
(大森シン「よぉーし。さっそくコテージいくよ!」
そして歩くこと2分。ついにコテージが見えてきた。森の中に少し開けた場所。そして、そこにひっそりと立つ木材で作られた大きな家。あれがコテージか。車で移動中に少々調べたが、実際見るとやはり違うものだな。雪国にあるような建物だ。
ギィィーーー。
ゆっくり木造りの扉を引く。
(俺「おぉ…こりゃ広いなぁ」
中は広々としており、天井は高く、たくさんの家具もあった。ソファやらストーブやら…あれはロッキングチェアか?よく海外の映画にでてくるゆらゆら揺れるゆりかごのような椅子もある。
(大森シン「寒いし、ストーブつけるよ〜」
カチッ。シンがストーブを付けたから数十秒後に暖かくなり始める。
あったけぇ。冬につけるストーブやヒーターの温もりは異常だ。
(シャナ「たいきさん。この変な形のヤツはなんですか?たくさんありますけど」
(俺「ん?あ!これ湯たんぽか!!!懐かしいなぁ。」
湯たんぽは子供の頃に1回だけ使ったことがあったが温かいってもんじゃねぇ。冬は寝るさいの布団が冷たくヒヤヒヤしてるのが問題だった。それが一瞬で解決できたのが湯たんぽ。容器の中にあっつあつのお湯を注ぐだけの暖房具。これだけで布団はコインランドリー終わりの布団へと豹変する。しかも湯たんぽは繰り返し使えるし、お湯をいれるだけというお手軽感。最高だ!
(シャナ「湯たんぽですか〜。使ってみたいです!」
(俺「そうだな!寝るときに使ってみるか!」
(大森シン「2人とも!荷物置いて夕食にするぞ!」
(俺「夕食か!コテージでの夕食ってどうすんだ?」
(大森シン「コテージでは俺たち宿泊者が持ち寄るんだよ。だから俺が食材やらなんやら持ってきたぞ!」
おぉ!これはありがたい。シンもシンでちゃんと調べてるなぁ。
(シャナ「大森さんが作るんですか?!」
(大森シン「そうだよっ!シャナちゃん!今夜の食事は、冬に合う゛体ぽかぽか超簡単豚汁うどん゛だ!」
(俺「ほぉ!豚汁うどんかぁ!いいねぇ!」
(大森シン「だっろぉ?任せろやい」
そしてシンは調理を開始した。
(大森シン「まずは、豚肉を一口大に切る!そして5分置く!その間にごぼうやら、大根やら人参などを切り、ごぼうはよく洗い、水に10分さらしアクを取る。そして土鍋に水と野菜を入れ火を付ける。野菜が柔らかくなってきたらうどん、松茸、生姜を入れる!。うどんがほぐれ、豚肉の色が変わるまでゆでる!そして馴染んだところで火を止めて完成じゃあ!」
(俺「おおっ!すっげぇ湯気でてる!」
(大森シン「さぁ。め、し、あ、が、れ。」
(シャナ「すごいですねぇ!いただきまーす!」
(大森シン「あぁ。そうだ。2人とも、七味かけたいなら言えよ!」
(俺「おっ、じゃあ七味かけよっかな」
俺は麺系には大体七味をかけるタイプだ。あのちょっぴり舌をしびらせる辛さがたまらんのだ。
フゥーフゥーフゥー。舌をやけどしないよう風を送り、麺をすする。
ズルゥズルズル。
(俺「おっ…ふ。」
美味い。これは美味い。まさかシンが料理上手だとは。
うどんのふっといモチモチした麺が豚汁特有のあの汁を吸取ってさいっこうに味わい深い。
そして豚汁うどんを評価するにあたって一番の見どころはやはり肉や野菜類。豚汁は野菜や肉が多めなため食べ応えがすごいのだ。
(俺「あ〜。麺と一緒に豚肉を食うと最高に味わい深いぜぇ。」
ズゥゥゥゥー。
やっぱり汁も一級品だ。七味をかけたことにより、豚汁の甘みにほんの少しの辛味がチョイスされ中和してやがる。たまんねぇぜこりゃ。
(俺「ああ〜体の芯まであったまるぅ。これに加えて今日は湯たんぽまである。今日の夜は凍えずに済むな。」
(シャナ「ふぅーふぅーふぅー!」
(俺「ん?シャナまだ息吹きかけてんのか」
俺が豚汁うどんにやみつきになってたからか、シャナがまだ一口も食べてないことに気づかなかった。
(シャナ「ふぅー。私は熱いのは苦手なので、こうやらないと食べれまぇん!」
そうか。シャナは猫だもんな。そりゃあ猫舌か。にしてもだがな。
(大森シン「ふふふ。シャナちゃんたらお茶目。」
(俺「ずいぶん変な口調だな」
そう思ってシンの方を見ると既にシンは豚汁うどんを食い尽くしていた。
(俺「えっ、はっや!」
(大森シン「だろぉ?熱いもんは熱いうちに食べなきゃあな!」
ずっとフーフーフーしてるシャナの前で言うことじゃないな。
にしてもコテージ。思っていた期待値をうんとこえやがったぜ…
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