第16話

寧々はあさゆうに来ていた。

「前島君にこの台本を読んで欲しいの」

「俺、演技の事なんかサッパリ分からないし」

戸惑っている啓也に寧々は言った。

「これを読んでどう思ったかだけ聞かせて欲しいの。その間、バイトは私が変わるから」

寧々は真剣だった。

「一つ聞いてもいい?何故シロウトの俺に?」

「あなたなら本質を掴めるような気がするの」


寧々はカレーを運んで笑顔を見せている。

「なんか君、伊能まどかちゃんに似てるねってこんな所でバイトしてるわけないか」

その間、2階の部屋で啓也は真剣に台本を読んでいた。


そして啓也が階段から降りて来た。

「どうだった?」

「分かるよ。彩乃の気持ち」

寧々は啓也を椅子に座らせた。

「どういう風に分かったの?」

「寂しい子だと思ったよ」

寧々は目を見開いていた。

「寂しい?自己中心的じゃなくて?」

全く思ってもいなかった一言だった。

啓也は寧々に台本を返した。

「そんなのじゃないよ。もっと繊細な心を持っているような気がする」

「寂しい…… 繊細な心。」

寧々はエプロン姿のまま考えている。

そしていきなり寧々は立ち上がった。

「最後に例えると?」

「晩秋に吹く木枯らし」

寧々は啓也の両手を握りしめた。

「ありがとう。チケット送るから舞台観に来てね」

寧々はマスターとオバさんに頭を下げるとエプロンを返した。

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