第9話

翳りの撮影が始まり、涼の出番の日がやって来た。

一方別の撮影所で寧々は休憩時間にメールを入れた。

"今日はご褒美にカレーオムライス。

頑張って!ᕦ(ò_óˇ)ᕤ

そして椅子に座って涼の待ち受けに向かって祈りを込めた。

涼ちゃん、頑張って……


「申し訳ありませんでした!でももう一度やらせて頂けないでしょうか?必ず鈴木様のご要望にあった物件をお探し致します!」

客の鈴木という女性は渋い顔をしている。

「私は三口コンロといったのよ!ここは違うじゃないの!私だって忙しいのよ。それを…… 」

「本当に申し訳ありませんでした!私のミスです。鈴木様のご要望を私がきちんと把握できておりませんでした。

お怒りはごもっともです。ですがもう一軒鈴木様にご紹介したい物件がありまして…… 」

智樹は土下座をしたまま、話を続けた。

「もういいわ!」

鈴木はそう言い捨てるとそのまま

部屋を出て行った。

入れ替わりに主人公の上司が入って来た。

「いい…… お詫びだったぞ」

「いい、お詫びって…… 何ですか」

上司は智樹の肩を抱いた。

「誠意を込めて心からお詫びするという事だ」

「はい、カット。涼君なかなか良かったよ」


涼はベッドを抜け出し、寧々の鞄から台本を取り出した。

寧々の台詞は全て赤線が引いてあり、細かな注意事項がいっぱい書き込んであった。

更には自分の台詞だけではなく、他の人の役の台詞にも書き込みがあった。

寧々の台本はもうボロボロだった。

涼はたくさんの寧々の思いをそこに感じてい

た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る