第3話

真理子の喪が明けた。

寧々は部屋で荷物を纏めていた。

スーツケースに次々に洋服を詰めて行く。

「寧々、何をしてるんだ?」

「私、ここを出て行くから。だからいっちゃんは自由にしていいのよ」

矢野は信じられない思いで寧々の両肩を掴ん

だ。

「何をバカな事を言ってるんだ!」

だが寧々は冷静だった。

「私は玖賀寧々に戻る。だからいっちゃんはいっちゃんの幸せを掴んで」

矢野は首を振り続ける。

「上半期の芸能人ランキング見た?いっちゃんがぶっちぎりの1位」

寧々は明るい声ではしゃぐように言った。

「…… 」

「……勿体ないよ。まだ33歳なのに。これからじゃない。素敵な人見つけて幸せにならな

きゃ」

だが矢野はゆっくり首を振った。

「真理子は死んだんだよ。寧々。他の人なん

て…… 」

「今はそうかもしれない。でもそのうちきっ

と…… 」

「寧々!」

矢野はたまらなくなって等々声を荒げた。

「お前は生涯僕の娘だ。お前が大学出て、恋愛して、結婚して新しい家族が出来るまで僕はお前を見守り続ける」

「その時、いっちゃん何歳よ!私といっちゃん血が繋がってないのよ!お母さんと結婚したから私って娘が出来ただけ。お母さんが死んだら私も出て行くのが当たり前じゃない」

寧々は涙ぐんでいた。

「私はいっちゃんにもう一度幸せになって欲しいの!いっちゃんはお母さんを心から愛してくれた。私の事も本当の娘のように愛してくれ

た」

矢野は手を離すと、今度は優しく寧々を抱き寄せた。

「ありがとう…… いっちゃん。もう十分よ」

矢野はゆっくりと寧々の身体を離した。

「それが違うんだよ。寧々。僕達は家族なん

だ。真理子と寧々と僕、ちゃんと家族だっただろう?それが真理子が死んだら何故家族じゃなくなるんだ?」

「それで後悔しないの?」

「愛してるよ。寧々。お前は僕のたった一人の娘だ」

「いっちゃん!」

寧々は矢野に縋り付いて泣いた。

本心は矢野の側に居たかった。

でも母が死んだらもう側にいる事は出来ないと思っていた。

実の父でさえ、奥さんと子供に夢中で別れた女の娘など疎ましく思っているのに、何の血の繋がりもない矢野が寧々を愛してくれるのが寧々には信じられなかった。

矢野は優しく寧々を抱きしめ、何度も髪を撫でていた。

「僕と一緒に居てくれるな、寧々」

「はい…… 」

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