第11話 新田新太の決断

南高校生徒会1年新田新太。たまたま小中高が同じになった結愛の事が物心がついた時から好きになっていて、誰かに取られる前に告白しようと決意する。


「結愛、一緒に帰ろ?」


「ごめん、友達と予定ある!」


そう言って彼女は別の道に進んでいく。この事を知っているのはうちの生徒会長であり先輩のユウト会長だけだ。以前生徒会室で二人っきりになった時、叩いて被ってじゃんけんぽんで3回連続で負けた方がとっておきの秘密を話すと言うゲームを行なっていて、その時に話したのが最初だ。


「幼馴染で生徒会に入ってきた時は付き合ってるかと思ったけど、これからなんだな」


会長に打ち明けた時に言われた言葉は今でも覚えている。一瞬でも他人から見たら付き合っていると思われている事が嬉しいのだ。


「え、あ〜違う彼氏じゃないよ」


そしてこれももう一つ今でも覚えている言葉だ。入学して初めの頃、友達が少なかったので結愛と一緒にいる事が多かった。結愛は友達がすぐ出来るタイプなのでたまたますれ違った友達に「彼氏?」と聞かれた時に結愛が答えた言葉だ。そしてこれには続きがある。


「こんなのが彼氏な訳ないよ」


別に悪意とかそんなものがないことぐらい分かっている。だけどこの言葉は今でも自分の中で引っかかっている。本当は内心ウザいと思われているのか、もしかしたら一緒に居るのが嫌なんじゃないかと。でもこれを会長に相談した時


「別に意味はないと思うぞ。逆にそのレベルのいじりをしても大丈夫な信頼関係があるってことだ。初対面の奴にこんないじりしたら一瞬で人間関係がパーになるだろ?」


と言われた。確かにと思う反面未だに半信半疑の自分がいる。


ただこの先輩は信頼できる先輩だ。口は硬いし友達は多いし、普段は面白い男子高校生だが、相談するときは親身に聞いてくれ雰囲気が異なる。それはモテて彼女が居るわと納得するほどに。


体育祭は来週の土曜日に開催される。主催は北高校生徒会なので南高の生徒会はほとんど仕事がない。


そして俺は来週までにやらなければならないミッションがある。先輩のアドバイス通りに結愛をデートに誘うことだ。


恋愛経験がない俺は何かと結愛を誘う時、毎回様々な理由を付けている。それは好きバレしたくないからだ。好きだとバレたら嫌われて、クラスで噂になって馬鹿にされる。中学校まではそうだったが、高校からはむしろバラしていかないとダメだと先輩から教わった。


本当はLINEで聞きたいところだが、一緒に帰る関係値なら直接誘った方が良いとの事なので、焦って毎日誘っているがここの所2連敗だ。ガッツリデートなら土日のどちらかで行きたいので、今週の土日までが期限。そして今は木曜日。あと2日しかない。


そして冒頭に戻る。今日も今日とて結愛は予定があるそうだ。普段は部活に入っているので生徒会がある時でしか帰る機会がないのだが、今は体育祭前の特例で結愛の所属する陸上部はグラウンドが使えないため、各自自主練となっているのだ。これは絶好のチャンス!と思っていたのだが現実はどうも難しい。


焦る気持ちを抑えて帰宅してすぐ先輩に相談する。すると


「じゃ、明日は生徒会を招集するか」


と救いの手を差し伸べてくれた。そうすれば結愛も生徒会に参加する為一緒に帰れる確率が高くなる!他力本願だが頼れるものは頼ろうと言うことで提案に甘える。


そして翌日。生徒会室にはいつもの4人が集まっていた。3年の先輩は勉強が忙しいらしく、また体育祭の生徒会エキシビジョンマッチで引退するとの事で今日も来ていない。


一応南高校生徒会も体育祭に向けて備品の管理や出場生徒の把握など仕事はあるのだが、2年の副会長の雛先輩が優秀すぎてとっくに終わっているのだ。


そんな中でも乾いた雑巾から無理やり絞り出したような仕事を片付ける。1年生は来年があるので先輩から仕事を教わる。


そしてその後は全員で借り物競走で使う用の段ボールを切っている。お題が書かれた紙の貼り付けは先輩が後日行うそうなので今日は切るだけらしい。手伝うと言っても競技に参加する1年生に内容が漏れないように例年2年生がやるのが恒例らしい。


そして午後17時30分、全ての仕事が終わり各々帰路に着く。


「結愛、今日は一緒に帰れる?」


鼓動が少し早くなるのを感じながらいつもの感じでそう問いかける。


「ごめん、友達と帰る約束しちゃった」


そう結愛が答えた瞬間終わったと察した。別に来週があるのだが、来週は体育祭本番なのでデートチャンスは今週が最後。平日誘うのもいいが時間が限られる。


「結愛、たまには一緒に帰ってあげないと新太が寂しがるぞ」


動揺しながら頭をフル回転させていると後ろから先輩が救いの手を差し伸べてくれた。


「この前も新太、結愛が最近帰ってくれない。嫌われたかもーって生徒会室で言ってたし」


「ちょ、先輩!」


そういえばちょっと前にそんな事を言ってたなと顔を赤らめて反論する。


「も〜分かった。今日は一緒に帰ってあげる」


雛がそう言った瞬間、さっきの恥じらいは飛んで行った。逆転勝利したのだ。


そして先輩から「絶対にデートに誘えよ」と言う圧を感じながら帰路に着いた。


学校から家までは歩いて18分程度。その間にデートに誘わなければならない。


「で、結局数学の森田先生そのまま職員室帰っちゃってさ〜」


結愛といつもと変わらない他愛の無い話をしながら帰宅している。

いつも通りの日常。しかし着々といつも別れる道が近づいてきている。そしてそれに比例するように僕の鼓動が早くなるのを感じる。

どう言う話の流れで誘うか、どう話せばその話題に持っていけるか考えるが上手くいかない。そしていよいよ帰宅の終わりを知らせる橋を渡った。これを渡れば1〜2分でいつも別れる場所に着く。


もう話の流れなんて気にしてられない。勇気を出せ!と自分を鼓舞するが中々勇気が出ない。


「じゃ、また来週!」


いよいよいつもの場所に来てしまった。そして都合良く会話も終わったので結愛から別れの挨拶を告げられる。


「待って!」


考える前に体が動いた。最後の最後で勇気を振り絞った。体が熱く鼓動が更に早くなるのを感じる。そして俺は流れに身を任せて


「明日、鳥取駅の方に映画見に行きたい。結愛と一緒に」


そう告げた。結愛は呼び止められ、そして告白のような口調で告げられたデートの誘いで何かを察したのか一瞬時が止まったかのように黙った。


「それって、友達として?それとも違う?」


結愛が尋ねてくる。いつにも増して真剣な表情に感じられた。そして最後の勇気を振り絞って答える。


「結愛の事、気になってるから一緒に行きたいな」


言ってしまった。ほとんど告白のようなものだ。体が熱いが、心臓の鼓動はさっきより緩やかになる。


「分かった。集合はここで良い?」


結愛から承諾の返事が返ってきた。正直半分ぐらい断られると思っていたので嬉しくて舞い上がりそうになる気分を抑えて


「11時に、ここ集合でいい?」


と答える


「分かった!ちゃんと楽しませてよね!じゃ、また明日」


そう言ってお互い各々の方角に向かって歩き出した。成功したと言う事実に叫びたい気持ちを抑え、先輩に報告とお礼の文章を急いで送った。


そして家に帰るまでの数分の間に映画の上映時間をリサーチしながら帰る。そして家に帰ってからも浮かれながら明日の日程と服装、そしてYouTubeを見ながら髪型を考える。


本当は先輩に相談したかったのだが、忙しいのか珍しく既読が付かない。電話でもかけようかと思ったが、彼女さんと一緒にいる事を考えて自粛した。


初デートは明日。本当は一週間ぐらい時間が欲しかったと言うのは贅沢すぎる悩みだろう。


一応就寝前、リビングに居た両親に明日は8時に起こして欲しいと伝える。母から


「デートでも行くの?」


と茶々化されそうになるが


「友達と遊ぶだけ」


と誤魔化して自室に戻る。そしてスマホでタイマーをセットし、長らく置物になっていた目覚まし時計のアラームもセットする。そして寝付けるまでYouTubeでデートのコツや髪型アレンジの動画を見る。


恐らく興奮しすぎて寝付けたのは夜中の3時を過ぎていた。

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