第10話 幼馴染

俺は2日連続糞のせいで恥をかいてしまった。会議室に戻ろうとするも既に施錠してあったので恐る恐る生徒会室に戻る。

するとそこにはさっきまで会議に参加していた3人が戻っていた。


「あ、会長お腹大丈夫ですか?」


後輩の結愛からなんともデリカシーのない質問が飛んでくる。


「ユウト、流石にさっきのはダサかった」


ププっと笑いを堪えながら雛が机を叩く。泣きっ面に雛である。


「はいはい。お腹が痛かったもので悪かったです」


そう言って俺は生徒会室にある古いながらも良さげなソファーに腰掛ける。


よくドラマやアニメで生徒会室と言えばまるで会社の応接間のような広々とした空間に高そうな机や椅子が鎮座しているが、現実の公立高校の生徒会室と言えば普通の教室よりちょっと狭い空間に古びた長机やパイプ椅子が置いてあるだけだ。パソコンに至っては年季が入りすぎてていつ壊れてもおかしくないレベル。この空間の中で一番豪華な椅子と言えば今俺が腰掛けてる椅子なのだ。古くてボロボロだが気にしない。


「約束通りミスド奢るけど、みんな鳥取駅まで行くか」


会議前に約束していた奢りの話題に移すことで罪滅ぼしをしようという作戦に俺は出た。すると


「あ、ごめん私彼氏と帰る事になった。また奢って」


っと雛が発言した。そう、雛には一個上の先輩の彼氏がいるのだ。何回か見かけたが結構カッコいい人だ。


「私も今日は帰ろうかな」


結愛が青い髪をクルクルしながらそう答えるのを横目に、俺は新太からの視線を感じた。


「ま、俺の粗相もあった事だし、後輩と親睦を深めるために3人でスタバでも行くか!奢るぞ」


「え、じゃあ行きます!」


「僕も行きます!」


結愛と新太がそう答えると


「うわ、私も付いていこうかな」


と雛まで来そうになったが、あいにくそうなれば予算オーバーの為、適当にあしらって3人で列車に乗り鳥取駅に向かった。


「先輩、ありがとうございます」


駅に向かう道中で新太がこっそり俺に話しかけてきた。


この二人、幼馴染なのだが、新太から実は結愛の事が気になってるから協力して欲しいと相談を受けた為、俺は自分の懐事情を鑑みず3人でスタバに行く提案をしたのだ。つい1時間前に糞を漏らしかけていた奴とは同一人物とは思えない紳士的な行動だ。


結愛は黒髪の可愛い女の子だ。聞くところによると同学年にも気になっていると言う子が多く、何人かはアプローチをかけてるらしい。幼馴染の新太はずっと結愛の事が気になっていたのだが特に行動は起こさなかった。しかしライバルの存在を知り本気で落とそうと奮闘中と言う訳だ。


ここは彼女がいて余裕のある先輩がリードするのが礼儀といった事だ。


そしてスタバに着いたのだが、新作が出て間もないと言うこともあり結構混んでいる。さっき列車の中でインスタを確認すると何人か同級生が新作のフラペチーノの写真を上げていた為、多少混んでいるのは覚悟していたのだがどうも座れそうにもない。


別に混んでいるだけならまだしも、何人か顔見知りもいたりして少し気まずいので今日はテイクアウトで頼む事にした。


なけなしの小遣いで3人分のフラペチーノを奢り、可愛い後輩の為と言い聞かせながら3人で帰路に着いた。


少し市内を散歩してから列車に乗り、家に帰る。本当ははやく二人っきりにしてあげたいが、最寄りが一緒なのでそこまで会話を盛り上げて新太に引き継ぐのが出来る先輩の役割だ。


話題を探すために今日の記憶を辿っていると、一つ重大な事を忘れてた事に気がつく。


「そういえばハルトはどうなった?」


後は任せると言って出て行った以来ハルトを見ていない。俺も人の事言えないなと思いつつ問いかけると結愛が


「修理に出しておきました」


とあたかも普通の事のように答える


「いや家電か」


「向こうの生徒会の人たちがなんとかして元に戻してくれるみたいですよ」


どうやらハルトは修理中らしい。明日には戻るとの事で一件落着と言う事だ。今日のハルトは正直キモかったから元に戻るのは助かる。


そして最寄り駅に到着し、俺たちは解散した。新太にエールを送り、俺は家路に着く。


そして家に着いて少しすると新太から電話が掛かってきた。


「先輩、結愛の件なんですけど・・来週の体育祭に告白するってのはどうでしょうか」


どうやら恋愛絡みの相談らしい。ここ最近新太からかなりの数の相談を受けている。


「体育祭マジックってやつか!いいと思う」


やっと勇気を出す覚悟が出来たのかと少し嬉しくなり声を張って答える


「それで、体育祭までに何か出来ることってありますか?筋トレとか」


「筋トレして自分磨きするのもいい事だが、正直今からでは遅い。でも一応ランニングと筋トレのセットは毎日欠かさずやっても損はないかもな」


恋愛経験が無い男子は意中の女性に振り向いてもらう手段として大体筋トレを挙げるが、ぶっちゃけこの時期からでは遅いしそもそも基本を忘れている。


「いいか新太。前も言ったが俺たちは思春期を終えた漢だ。中学校までは好きとバレたら負けみたいな風潮があったかもだが、高校からは好きだと相手が分かるようにアタックしないとダメだ」


これが出来るか出来ないかが今後恋愛が成功するか失敗するかの分け目と言っても過言でも無いだろう。でも思春期上がりの男子にいきなりアタックしろと言っても難しいのも理解している。ここでは勇気が必要だ。


「今度結愛と一緒に帰る機会があったら、今度の休みに服を買いに行きたいとか、映画を見たいとかなんでもいいからデートに誘え。絶対に」


「い、いきなりですか!?」


「お前たちは関係性があるからいきなりでも大丈夫だ。そして大切なのは変な理由を付けない事。正直に結愛と二人で出かけたいと誘うんだ」


時には適当な理由を付けて女の子とデートするのも必要かもしれないが、この二人の関係性においては逆効果になりそうなのであえてその道を示さなかった。


「いいか新太。一緒に帰れる機会はそんなにないから絶対次回誘えよ。出来なかったらビリビリの刑だからな」


「わ、分かりました。いつもありがとうございます」


そう言って新太は電話を切ったので、メッセージにおすすめの筋トレ動画だけ送っておいた。なんだかんだ言ったが筋肉はつけておいて損は無いだろう。


そういえばさらっと流したがよく考えれば来週は体育祭があるのだ。


去年から南高と北高の親睦を深めると言った理由で両校で競う事になっているのだが、男女比で北高が不利なので少しやる気が出ない。


ただ北の会長にギャフンと言わせたい為に、生徒会エキシビジョンマッチの為に俺も今日からガッツリ筋トレをする事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る