第9話 仕返し

「え〜、今からぁ、南北協議会を開催します。礼ッ!」


俺の号令に皆は困惑気味な表情を浮かべる。しかし気にしてられない。ハルトの、そして俺の2543円(税込)の恨みを晴らさなければならないからだ。


「ご存知の通りぃ、私たち明美台南高校2年3組所属で私の友人でもあるハルト君がこのような目に合ってしまいました。ヒドイッ」


手を顔の前で組みバイザーを掛けて某司令のような格好で北高の生徒会に訴えかける。


「ハルト、昨日何されたか説明を」


リードに繋がれて足元でお座りをしていたハルトに話しかけるが


「クゥゥゥーン」


と怒られた直後の犬のような表情をしていて会話にならない。


「この様に昨日そちらの涼しい部屋とやらに連れて行かれて一晩放置された彼はこの様に心神喪失状態になってしまいましたッ。一体なぜこの様な事態になったのですか?」


キリッとした目線を相手に向ける。向こうの生徒会は見るからにやっちまった〜っと言った表情をしているので勝機はこちらにありそうだ。


「えっと〜それは・・・」


北の会長は昨日までの威勢の良さを失った様な表情をしている。これは勝ち確ムーブ来た!俺を敵に回すからこうなるんだぞ覚えておけよ。


「私が昨日彼を連れ去り、そのままその存在を忘れていて今朝慌てて解放しました。えっと、ごめんなさい」


向こうの会長の連れ、確かアリサちゃんって言ったっけな。彼女は可愛い見た目とは裏腹に意外とキツい性格かと思っていたが、意外と素直に謝罪して来た。


「本当はすぐ解放するつもりだったんだけど、お手洗いに行った時に忘れてしまって」


お手洗いで記憶ごと流してしまったそうだ。おそらく大だったのだろう。そんなデリカシーのかけらのないことを考えていた。


「君たちがどういう経緯でハルトを忘れたか、そんなのはどうでもいいんだ。俺はただ、大切な友達が、クラスメイトがこんな目に遭って悲しいんだよ」


若干胡散臭い演技だったのが仲間にもバレたのか、左右から視線を感じるが後には引けないため俺は泣き続ける演技をした。


「俺たちの要求はただ一つ。彼を元に戻してほしい。そして俺たちに向かって謝って欲しい。それだけさ」


決まったと言った表情をしていると


「いや二つじゃん」


「やっぱバカね」


と罵倒が北の方から聞こえてきた。自分の言動を振り返り確かにその通りだったので顔が赤くなる。


「いいか、俺は名誉の為に言ってるんだ。とにかく謝れ」


「絶対昨日私たちがコイツの彼女に洗いざらい話したこと根に持ってるよね?」


「私もそう思う。多分腹いせしているだけ」


一瞬自分の心が読まれたのかとドキッとした。仲間であるはずの生徒会メンバーですら言わんこっちゃないと言った表情をしている。孤独で戦うのもリーダーの役目か。


「まあとにかく、確かに彼にしてしまったことは本当にごめん。責任を取って元に戻すわ」


北の会長は一応責任を取るそうだ。そしてこの瞬間、同時に俺は窮地に陥る。


めちゃくちゃ腹が痛くなったのだ。


恐らくさっき学食で放課後限定のアイスを急足で食べたのが原因だろう。たまたま授業が少し早く終わり小腹が空いていたので会議前に食べたのだが急に腹を冷やすのは失敗だった。


今この場でお手洗いに行ってくると抜け出せない訳ではないが、タイミング的にずっと大を我慢していたと向こうに悟られるのは御免だ。向こうのアリサちゃんみたいに重要な情報ごと出してしまう情報流出(物理)の可能性だってある。


現実では5秒経っただろうか、その程度の時間で脳内会議を終え、俺は一つの作戦を思いついた。あとは任せると格好つけて出ていけば不自然じゃないしなんなら向こうの二人が惚れる可能性すらあるだろう。そしてそれが原因で両校の融和に繋がってもおかしくない。


とにかくとてつもない痛みのお腹を抑え、波が去ったタイミングで俺は急に席を立った。


「雛、結愛、新太 あとは任せた」


皆の急に何といった視線を振り払い焦っている事を悟られないようにドアノブに手をかけたのだが、ここでまたトラブル発生だ。


「ど、ドアが開かない!?おい北!お前たち俺たちを閉じ込めるつもりかッ」


緊迫した空気が部屋に流れる。まさかさっきのアイスに下剤を仕込んで俺に粗相をさせるつもりだったのか。いや、それとも俺たちがこれから向こうが提案する不平等条約に承認するまで昨日みたいに永遠に鞭で打たれるところだったのか?様々な憶測が脳内を駆け巡る。そして北の会長が口を開いた。


「それ多分引くんじゃない?」


俺は恐る恐る扉を引くと・・・開いた。急ぐあまり、そしてあまり入ったことのない部屋だったのでつい力が入り押していたのだ。


「お、覚えておけよぉ」


そう言い残し俺は走ってトイレに向かっていった。部屋からは笑い声が漏れていたが、もう知らない。それより腹が痛すぎるのだ。



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