第33話 一生大事にする

 高校3年生になってから4ヶ月が経った。

 季節は夏で、外ではせみが鳴いている。

 あっつーいと隣の悠輝が溶けそうな表情で嘆いている。


「おいやめろ。暑いって思うから暑いんだ」

「じゃあ寒いって思えばいいのか?」

「うっせえ。気候に文句言うんじゃねえ」

「おおう。急に理不尽……」


 悠輝はヘラヘラ笑いながら外を見る。


「……束咲。俺、推薦で大学行くことになったから」

「お。おめでとう。さすがはバレー日本代表だな」


 そりゃあ、もう三年生の夏だから決まってるやつは決まってるよな。

 俺が褒めると悠輝は「やめろ気持ち悪い」と言ってべーっと舌を出す。

「どうも。で、束咲はどこに行くんだよ」


 悠輝のその言葉に、俺はスマホにふと視線を落とす。

 そろそろのはずなんだが……。

 その時だった。ピロリンとスマホから軽快な通知音が響く。

 俺はもとからスマホを起動していたため、通知が画面上端に表示されていた。

 そこに書かれていたものはというと……。


『冴木束咲様。あなたは我が校に特別推薦枠として合格しました』


 と、そう書かれていた。

 俺が志望した学校は東神大学。eスポーツにも力を入れていて、さらには瑠実が通っている大学だ。

 先生たちからはもっと上の方に推薦出せるよと言われていたが、俺はここがいいと言って押し通った部分もあったため、この通知が嬉しい。


「……悠輝」

「ん?」

「俺にも来たぞ」

「何が」


 悠輝が首を傾げたところに、俺はスマホ画面を見せてやる。


「推薦。通ったよ」

「だろうな」

「もうちょいでかい反応しろよ……」


♢♢♢♢♢♢


 家に帰ると鍵を開けた覚えがないのになぜか瑠実がいた。

 やっぱり合鍵作ってるなと思いつつ、俺は「ただまー」とだけ告げ、部屋に荷物を置いた。そのままベッドへ腰掛け、ふと考え込む。

 ……どうしよう。瑠実にどう報告すればいいんだ……。

 もしそのまま「合格しちゃった」と言ってもいいかもしれないが、瑠実だと絶対にサプライズ感のあるものを求めるだろう。

 ……いや、ここは夜ご飯はオムライスにして、そこにケチャップで『合格しました』って言うのもアリかもしれない。さっすが俺。それで行こう!

 いいアイデアが思いついてニヤニヤしていたところに、部屋の扉がコンコンとノックされる。ノックするのは家で一人だけなので俺は「おう」とだけ言って入室を許可した。

 入って来たのは無論だが瑠実。彼女は少し目を逸らしながら肩が少し上がっていて緊張しているように見える。

 どうしたのだろうと少し見つめると、瑠実はこちらの視線に気付いて耐えかねたのか「その、これ!」と頬を赤くして一つの箱を渡して来た。


「……これは?」

「あ、開ければ分かるから……」


 ふむ。なら遠慮なく開けさせていただこう。

 俺は包装された箱を丁寧に開け、箱の中を見る。

 その中身は、少し高そうなボールペンだった。

 綺麗なペンだなと思うと、瑠実は恥ずかしげに口を開く。


「その、大学に合格したでしょ?そのお祝いっていうか……」

「どうしてそれを……」

「原宮くんから」

「アイツが密告者か」


 ラインブロックしてやろうか。

 まあ、それはさておき、こんなに素敵なプレゼントを送ってくれたんだ。

 俺は瑠実の頭に優しくポンと手を乗せる。


「ありがとう。一生大事にする」

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