第32話 溢れ出る正妻感

 次の日の朝のことである。

 俺は学校があるため、早めの時間帯に起きた。

 春とはいえ、やはり少し寒いな……。布団から出たくない。

 あと五分くらい……と思っていたところに、部屋の扉が静かに開く。アメだろうかと思いながら布団の中に潜ろうとした瞬間。


「寝坊しようとするなんて、悪い子なんだ〜♡」

「っ!?」


 耳元で吐息交じりにそう囁かれて、俺は跳ね起きた。ふとベッドの枕元を見ると、なんと瑠実がニヤニヤしながらこちらを見ている。


「瑠実、一つ聞いていいか?」

「なに?」

「お前、俺の家で何してた?」


 あからさまに何かしてましたよと言いたげな表情でこちらを見つめる瑠実に対して俺はそう問いかける。

 俺の問いかけに瑠実はしばらく固まったあと、「エヘッ☆」とアイドルスマイルを浮かべた。


「おいふざけんなよ!ホントに何したんだよ!?怖えんだけど!?」

「え、えへへ……。さーせんした!」


 俺の大声に瑠実はビクッとして目にも止まらぬ速さで正座した。いや、速えよ。

 俺は思わずため息を吐く。


「……瑠実」

「は、はい!なんでございましょう!」

「しばらくここで正座な」

「はい……」


 涙目で目を逸らしながら返事をする瑠実を見ながら、俺は部屋を出てリビングへ向かった。

 朝からとんでもないな……。さっさと朝飯……。

そう思ってリビングを見ると驚いた。なんと、テーブルの上には、朝食。しかもしっかり栄養バランスが考えられているものが並べられていた。

 これを作ったと考えられるのは一人しかいない。

 俺はそいつへと目をやった。


「お前か、アメ〜!」

「いや、どう考えても私だろ!」


 アメを撫で回す俺に瑠実は鋭いツッコミを入れる。

 そうか。瑠実が作ったのか。

 ……好きな人の手作り!


「ありがとうございます!」

「なんなのこの人……」


 頭を下げて感謝を伝える俺に瑠実はドン引きする。

 いや、好きな人の手作りだぜ?そりゃ嬉しいに決まってんだろ!

 俺はすぐさま椅子に座り、がっつく様に料理を口に書き込んでいく──のだが……。


「ごほっ!ごほっ!………辛い」

「そりゃあね!唐辛子10本入れてるから!」

「お前、バカなの!?」


 おかげで舌がヒリヒリして痛いわ!

 俺はキッチンへ行って水を汲み、それを飲んで辛さを和らげようとする。

 何杯か飲むと少しだけ舌の痛みが引いて来た。


「うう……。まだ痛い……」

「口に合ったのなら何よりだよ」

「どこがやねん!」


 この後、俺は学校なんですけど!……って、学校!

 ふと時計を見ると8時ちょうど。


「遅刻だああああ!」


 俺は超スピードで荷物を持ち、そのまま家を出た。


「いってらっしゃい♡」

「……」


 あかん。鼻血出そう……。

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