第34話 ハイ、チーズ!
今日は何気ない1日。
普通に学校に登校し、普通に下校して普通に過ごす。
何か違うことがあるとするならば、それは──。
「ハッピーバースデー!束咲ー!」
「誕生日おめでとう!束咲!」
そう。今日、10月25日は俺の誕生日である。
「ありがとう。二人とも」
テンションの高い悠輝と瑠実に俺はいつも通りの態度で礼を言う。
こういう時こそテンション高めに行くべきなんだろうが、俺はそういうのはガラじゃないし、そもそもどんちゃん騒ぎするっていうのも好きじゃない。
俺のいつも通りの態度と言葉に、二人はニッコリ笑った。
「おい、束咲!そんな素っ気無い態度取らないでさあ!もっと楽しく行こうぜ!」
「そうそう!せっかくの誕生日なんだから」
ニコニコしている二人がなんだか怖いんですけど……。
俺の誕生日だってのに、主人公よりも楽しんでんじゃねえか。
そもそも、誕生日っつってもたかが一歳増えるだけ。正直いちいち祝ってもキリがないと俺は思う。まあ、世界の習慣だから文句は何も言いませんけども。
あ、ちなみに18になって成人もしました。つまりはアダル……んんっ!色んなことが一人で出来るようになった。例えば──。
「おい、束咲!お前、プロゲーマー事務所に入るんだってな!それもおめでとうだわ!」
「おお。よく知ってんな。誰から聞いたんだ?」
「ネットニュースで流れて来たぞ。『世界最強個人プロゲーマー・冴木束咲。とうとう事務所へ契約か』ってな」
「あ、私も来たよ。とっても驚いたもん。おめでとー!」
そう言って瑠実は手をパチパチと叩く。
成人したことによって、今まで個人勢だったのが事務所へ
去年の決勝で当たった時は、マジで負けるかと思った。実際、ギリギリで勝った上に運が味方したし。けど、今勝負してくださいと言われたら負ける自信しかない。だってあの人マジで強いもん。その上爽やかイケメンで性格も眩しいくらいに良いからマジで尊敬できる人。
と、そんな話はさておき、今この場には誕生日ケーキは無い。俺はケーキはそんなに好きじゃ無いし、甘いもの自体苦手だからだ。
ただ、その代わりに二人はプレゼントを持って来てくれたとのこと。
「ちなみに二人ともプレゼントは持ってきてくれたって言ってたけど、何をくれるんだ?」
俺がそう聞くと、二人は同時に自信ありげに鼻を鳴らす。仲良しか。
「すっごいの持って来たぜ。お前が驚きすぎて腰を抜かすほどのな!」
「それなら今のうちに医者を呼んでおいてくれ」
どうやら俺の体に害のあるものらしいです。(棒読み)
何とも言えない表情になっている俺を見て瑠実は慌てて訂正する。
「すごいっちゃすごいけど、あんまり期待はしないでね?ガッカリされると困るから」
「おおう。急にしおらしくなるじゃん。らしくないなあ」
珍しい瑠実を見れて、もう十分プレゼントをもらった気がするが。
ニマニマした俺の表情に瑠実は「もうっ!」と顔を赤くしてそっぽを向いた。可愛いかよ。
そしてそのやりとりを見て俺よりニマニマしている奴が若干一名。
俺はそいつ。もとい悠輝を睨みつけ、悠輝は表情を直さないまま口を開いた。
「まあ、ただあげるっていうのも勿体無い気がすんなー」
「何言ってんだ。俺の誕生日なんだからあげんのが筋だろ」
「自己中発言やめて。……まあとにかく、誕生日プレゼントが欲しければ条件がある」
「条件ねえ……」
始まったよ。悠輝の勝負癖。
俺は呆れた表情で睨むが、悠輝はお構いなしだ。
悠輝は得意満面の笑顔で俺に人差し指を向ける。人を指差すな。
「お前にはこれから、俺とこのゲームで勝負してもらいます!」
悠輝がそう言って取り出したのは、あの有名な某レースゲームのカセット。
「マ⚪︎オカートじゃん」
「著作権に触れるからやめろ」
「アンタら二人は何を言ってんの……?」
いやだって……いや、これ以上はメタ発言だからやめておこう……。
そんなことはさておき、悠輝が俺にゲームで勝負を持ち掛けるというのが驚きだ。
悠輝のことだから自分の得意なスポーツ系のカテゴリーで持ちかけてくるかと思ったんだが……。何か企んでんな……。というか、二人でプレゼントを選んでる時点で瑠実が同時に仕掛けてくる可能性もあるか……。ただまあ、何を企んでいようと、俺は世界チャンピオンだ。そう
「いいぜ。乗った」
俺はニヤリと笑って首肯した。
プレゼントは貰ったも当然だな。
♢♢♢♢♢♢
俺ら3人はゲームをするために、設備の整った俺の部屋へ移動する。
俺の部屋だと回線遅れやテレビのスペックもそこらとは頭ひとつ抜けてるからやりやすい。ちなみに悠輝がこの部屋に初めて入った時に言ってた言葉は「ハッカー部屋みてえ」である。ゲーム部屋ですよ。
「さて、そんじゃあ始めましょうかね」
俺が全員にコントローラーを配ると、悠輝がゲーム機の電源を付けた。
しばらくレースゲームなんてやってないから
ふと瑠実を見ると、少し顔を赤くしているような気がする。アイドルがゲームに緊張でもしているのだろうか。……いや、瑠実に限ってそれは無いな。
そう思いながらコントローラーを握りながら操作確認。少し違和感は有りはするものの、鈍っているほどではない。100%本気でやれるな。と確信を持って言える。
「よーし。束咲、ここで良い?俺はどこでも良いよ。どうせ勝つし」
「大した自信だな。勝負はやってみねえと分かんねえぞ」
「それもそうか。でも、俺よりも瑠実にコースを聞いた方が良いんじゃねえか?」
「ああ、それなら大丈夫だ。な?」
悠輝は瑠実に同意を求めると、瑠実は「うん」と遠慮気味に返事をした。どういうことだろうかと不思議に思いつつも、レースが始まりそうだったので俺は画面に集中する。
コースはとても落ちやすい上級者向けのコース。俺のカスタムはスピードを重視したロケット型カスタム。100%
画面上。スタートのカウントダウンが始まる。
3、2、1──。
「っしゃ!ロケットスタート……って束咲速っ!」
スタートの合図がしたと同時に、超スピードロケットダッシュをかます。実はこれってタイミングによってロケットダッシュの距離とスピードが変わるんだよね。俺はそれに合わせてスタート。俺が合わせると、なんとそのタイミングはドンピシャで入り、誰にも真似できないようなスタートダッシュを可能にする。
スタートだけでほぼ追いつけないほどの距離にまで離した俺はそのまま差を開かせ続けて、スピードを緩めることなくラストの周に突入。悠輝たちはまだ2周目に入ったばかりのようだ。
「ぐっ!これ、勝てねえだろ……」
「当たり前だろ」
こちとら世界王者だぞ。俺に勝負を挑むなんざ1000年早いわ。
心の中で高笑いしていると、瑠実と悠輝が視線を合わせて互いにコクリと頷く。
何かしようとしているみたいだが、何をしようと俺の勝ちで……。
「束咲……。この勝負に勝たせてくれたら、すっごいこと、ヤらせてあげるよ?」
「っ!」
瑠実の吐息混じりの囁き声に、思わず手元が狂ってそのままコースアウトになってしまう。
驚いて瑠実の方を見ると、ニマニマしながら俺を見ていた。
……そういう作戦ね。
俺は集中しようと画面を注視する。
しかし──。
「私は束咲とのスキャンダル、取られても良いのになー♡」
「ぐっ!」
瑠実の言葉にまたコースアウト。
分からないかもしれないけどゾクゾクして手元が狂うんだよ。
その後も──。
「ほら。気持ちよくなっちゃえ♡」
「くう……」
コースアウト。
「私のカラダ、好きにして良いよ?」
「ちょっ!」
コースアウト。コースアウト。とにかくコースアウトを繰り返して、悠輝がすぐそこまで迫っているのに全然立て直せない。
何とかしなければと思っている拍子、瑠実が再び耳元に口を近づけ──。
「これに勝ったら、ご褒美、あげちゃうからね♡」
「……ん」
その言葉に俺のやる気はエンジンMAX。
瞬間、超スピードでコースを走り抜け、そのまま俺が1位でゴールした。
あ、あぶねー……。
「あーあ。俺は2位だ」
「私は途中で操作してなかったから最下位だ」
瑠実は妨害に専念していたのかと思い、思わず苦笑いを浮かべる。
俺にとってはご褒美でした。ご馳走様です。さすがに口には言わないけど……。
「で、プレゼントって何だ?」
首を傾げながらそう聞くと、瑠実はニッコリ笑って答えた。
「それはねえ……、原宮くん、持ってきて」
「あいよ」
悠輝は部屋を出て、しばらくすると、とあるものを持って戻ってきた。
「はい。ハッピーバースデー。束咲」
「ハッピーバースデー!」
「これって……」
二人が渡して来たのは携帯型ゲーム機。俺は基本的にテレビゲームやPCゲームをしているため、こういったものは家には無い。
俺は素直に受け取ると、「ありがとう」と言って笑顔を浮かべた。
「お、束咲が笑った」
「ね。めずらしー」
「……うっせえ」
俺は口元を手で隠してそっぽを向く。
いつも一言余計なんだよ。お前らは。
「ほんじゃ、束咲が笑ってるうちに写真撮ろうぜ」
「お、いいねー」
「え……」
「ほーい笑ってー」
こいつら、マジで俺の意見すら聞かねえじゃん……。
俺は呆れながらもカメラから視線を逸らしてピースを作った。
「ハイ、チーズ!」
──────
雑談。瑠実の誕生日は4月20日です。
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