第22話 過去を後ろに
ある日の午後の事である。
俺は日曜ということもあり、のんびりと過ごしていようかなと思っていたが、自分の部屋を見てみると……。
「いや、きったねえな」
自分で思わずそう言ってしまうほど、自信の部屋は散らかっていた。
床には飲みかけの缶や雑誌。ベッドの上にはゲーム機材がぐっちゃぐちゃに散らかっている。
休みが続いたということもあり、のんびりしすぎていたようだ。
俺はグッと体を伸ばして、まずは朝食を済ませようと部屋を出た。
♢♢♢♢♢♢
「さて、初めにベッドから始めますかね……」
片手にゴミ袋、もう片手には……何も持ってないけど、完璧だ。
よーし、パパッと終わらせちゃいましょー!
俺がまず先にとベッドの上のゲーム機材に手を伸ばした、その瞬間。
『ピンポーン』
突如として軽快なインターホンの音が鳴る。
誰だ、こんな日曜の朝っぱらに……。もしかして悠輝が……。
『ピンポーンピンポーンピピピピピピンポーン』
……うん、瑠実だな。
このインターホン連打は瑠実しかやって来ない。
俺は一旦部屋を出て、リビングにある通話機器に──。
『ピンポーンピピピピピピンポーンピンポーン』
「うるせえええええええ!インターホンを連打すんのは止めろって何回言えば分かるんだよ!この、ドアホがああああああ!」
『す、すみませえええん!』
案の定、瑠実が画面の向こうで深々と頭を下げていた。
ホント、インターホン連打は機器が壊れるからやめて下さい……。
♢♢♢♢♢♢
俺は取り敢えず瑠実を家に上げ、これからしようとしていたことを話した。
「……と言うわけで、邪魔すんなよ」
「……つまりは手伝っては良いってことだね!分かった!」
「全然分かってない……」
思わず涙が溢れそうになる。
母さんの天然にでも充てられたか……。
俺は目頭を押さえながら下を向く。
俺,何でこんな奴のこと好きになっちゃったんだろうな……。
「冴木、どうしたの?お腹でも痛い?」
うん、あなたなんですよ。
あなたが天然発揮してるから、ストレスが溜まりっぱなしなんですよ……。
俺は「大丈夫」と言って、諦めたように部屋に戻った。
無論、瑠実も付いてくる。
瑠実は俺の部屋を見るなり、「うわっ」と汚いものを見たかのように声を上げた。
「こりゃまた、随分と派手に散らかしましたね……」
「お前は俺の母親か……」
俺は呆れつつ、ベッドの上のゲーム機材を片付ける。
中には壊れてるものもあるから、これはゴミ袋にポイっと。
瑠実はというと、ベッドの下にあった段ボールを開けて……ちょっ!?
「若山、それ開けちゃ……」
「わあっ!トロフィーがいっぱいなんだけど!」
俺は見られてしまったと恥ずかしさで顔が熱くなる。
「えーと……『ゲーム・オブ・チャンピオンシップスFPS部門世界大会優勝、冴木束咲』!?」
「あ、あはは……」
「ちょっ!世界大会優勝って、どういうこと!?」
「その通りだけど……?」
「いやいや、おかしいでしょ……」
瑠実はその段ボールの中に入っている、他のトロフィーも取り出す。
「こっちはパズルゲーム部門、こっちはバトルゲーム部門……冴木、全部の部門で優勝してるくない……?」
「いやー、なんか全部の部門の世界大会で優勝しちゃった」
「いや、その『俺、この間新しいゲーム買っちゃった♪』みたいなノリで言うのやめてもらえます!?」
「お前がツッコミに回るなんて珍しいな」
「アンタがボケに回るからでしょうが!」
瑠実はそう言うと、ハッと気づいたようにスマホを取り出す。
何かを調べているようだが……。
「若山……?」
「冴木、アンタが出たのって『ゲーム・オブ・チャンピオンシップス』よね……」
「うん」
「この大会に出れるのって、プロゲーマーだけなんだけど……」
「そうだな」
「つまりは……」
瑠実はようやく気付いたようだ。
いや、隠してたつもりはないけど、聞かれても無かったし……。
「そう、俺は世界史上最年少プロゲーマーの冴木束咲だよ」
「わ、私なんかよりもずっとすごい人だった……」
瑠実はそう言って膝から崩れ落ちる。
まあ、最近はコイツが元国民的アイドルだってことを忘れるぐらいに存在が薄くなり始めてるからなあ。作者さーん!コイツの出番もっと増やしてあげて下さーい!
「まあまあ、若山。俺はお前と違って顔出しはしてないから顔を隠す必要がない。知名度はまだお前の方が上だ」
「いやいや、さすがの私でも世界一は取れなかったし、それに顔を隠す必要がないっていうのはそれはそれで腹立つ!」
「なぜ!?」
慰めようとしただけなのに、今度は瑠実の怒気が強まってる!
げ、解せぬ……。
♢♢♢♢♢♢
「落ち着いたか?」
「ご、ごめん……」
俺らは一旦、部屋の片付けを中断してリビングで休憩していた。
瑠実は申し訳なさそうにこちらを見て、同時に悔しそうな目もしている。
どっちかにしろよ……。
「ねえ、一つ聞いても良い?」
「どうぞ」
瑠実はこちらを睨みつけながらマグカップの中のココアを啜る。
コトンっとマグカップを置いて、瑠実は口を開いた。
「冴木って、何者なの……?」
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