第23話 あなたの何を知りたいか

「何者かって……、俺は俺だよ。冴木束咲」

「あ、いや、そういう意味じゃなくてさ……」


 瑠実はすこし笑いながらマグカップに口を付ける。

 いや、どういう意味だよ……。


「私はさ、不器用で、バカで、優しい。そんな冴木しか知らないからさ、昔の冴木がどんな人だったのか知りたいんだ」

「俺の何を知って得するんだよ。あと、バカじゃねぇ!」

「そこだけ拾うんだったら、まだまだバカだよ」


 瑠実はそう言ってクスクス笑う。

 コイツ、俺をからかいたいだけなんじゃ……。

 少しだけ負けた気分になっていると、脚元から「にゃ〜」とアメが鳴いている。


「ん?どうしたアメ。腹減ったか?」

「にゃ」

「そっかそっか。待ってろ」


 俺はキッチンへと足を運び、戸棚からキャットフードを取り出す。

 そのまま皿を床に置き、キャットフードを入れると、アメは食い気味にキャットフードへかぶりついた。


「今日のアメちゃん、いつもより元気だねえ」

「久々に出番が貰えたからじゃね?」

「そういうメタ発言を言えるところはさすがだわ……」


 瑠実は引き気味にそう言って、俺に軽蔑の目を向ける。

 おい、やめろ。俺がバカみたいじゃねえか。※バカです。


「と、とにかく、俺の過去についてはまた今度な」

「えー、なんでー?」


 瑠実は頬を膨らませて不機嫌さを表す。

 その仕草は可愛いらしく、子供のようだった。


「なんでって、気持ちを整理したいから……」

「あ……、分かった」


 瑠実は大人しく引き下がる。

 俺の言っている意味が分かったのだろう。

 俺は、あの過去を話さなければならない。

 けど、今は少しだけ怖いんだ。

 だからほんの少しだけ待っててくれ。


─────────

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