第16話 アイドル、泊まります!

「おい、若山。別にそこまでしなくても……」

「ええ?良いじゃん。もっと楽な姿勢で……ね?」

「いや、でも……」

「ほら、気持ちいでしょ〜?」

「……ちょっと束咲にぃ、瑠実さん。誤解を生むから、その言い方やめて」


 俺らのやりとりに美愛があきれた目で突っ込んでくる。

 ご、誤解って、俺らはただマッサージしてもらってただけだぞ。

 瑠実が「疲れてるでしょ?」って、急に肩をほぐしてきたのだ。俺は別に悪くない!

 ちなみに今は、3人で俺の部屋にいる。

 別にこの部屋で3人寝るというわけではなく、瑠実と美愛がこの部屋で寝るから、俺はある程度寝れるように準備をしていただけだ。

 そんな中で瑠実が半ば強引にマッサージしてきて、今に至る訳である。

 俺は瑠実に「もう大丈夫」と告げ、静かに立ち上がった。


「……それじゃ、俺はもう行くから」

「あれ、もう行っちゃうの?」

「お前の時間基準はどうなってるんだ……」


 瑠実の言葉に俺は呆れてしまう。

 コイツ、普段は何時に寝てるんだよ……。

 瑠実に聞こえないようにため息を吐きながら、扉を開ける。


「ね、ねえ……、冴木……」

「ん……?」


 部屋から出ようとしたところで、瑠実から声を掛けられる。

 どうかしたのかと思いながら振り返ると、瑠実は不安そうな目でこちらを見ていた。


「明日の朝、冴木が居なくなってたりとかしないよね……?」

「……」


 瑠実が言っているのは、先程のことがあってのことだろう。

 確かにあれは心配を掛けてしまったが、そこまで心配されているとは思わなかった。

 俺は安心させるようにそっと微笑み、こくりと頷く。


「ああ。俺からお前の目の前を去ったりはしないよ」

「そ、そっか……」


 まだ不安そうではあるものの、ホッと息を吐いて安心したかのような仕草を見せる。

 よっぽどだったんだな……。

 俺は再び扉のドアノブに手を掛けた。


「じゃ、おやすみ。美愛もな」

「うん。束咲にぃも早く寝なよ」

「おやすみ、冴木」


 俺は二人のその一言を聞いて、扉を閉めた。

 なんとも不思議な気分だな。

 子供を持ったような感じだ。


「あ、束咲〜!お母さんと寝ましょーね!」

「うわああ!抱きついてくるな!」


 部屋の前で感慨に耽っていると、母さんが勢いよくこちらに抱きついてくる。

 こっちは疲れてるんだから、余計に疲れるようなことはやめてくれ!


「ええ?良いじゃなーい!昔はよく『お母さんと結婚するー!』って言って抱きついてきてくれたじゃない!あの時みたいにしてくれて良いのよ〜?」

「それはちっちゃい頃の妄言だから……っ!良い加減離してっ!」


 なかなか離してもらえず抵抗するが、母さんの豊満な胸に引っかかって上手く抜け出せない!

 チッ!無駄に肉が付きやがって……っ!


「束咲〜?今、失礼なこと考えなかった〜?」

「い、イエ、カンガエテナイデス……」


 俺の心の中を見透かしたかのように、母さんは怖い笑顔を顔に貼り付けていた。

 す、スミマセンでした……。

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